2023年は金利上昇の年でしたが、その中で証券会社から勧められて買ったという人が多いなと思ったのがゼロクーポン債です。しかしよくよく話を聞いてみると、ニーズにマッチしているのかよく分からない例も多いようにも思われます。少しまとめてみましょう。

ゼロクーポン債とは

ゼロクーポン債とは、その名の通り、クーポン、すなわち利子がゼロの債券のことを指します。利子がゼロということは発生しうるキャッシュフローは買う時、売る時、償還される時、だけになります。とてもシンプルなので、分かりやすいと思う人もいることでしょう。ただ、初心者向けか、と言われるとそうでもないと思います。

ゼロクーポン債のメリット

ゼロクーポン債は割引債とも呼ばれ、額面以下で発行され、そして取引されています。そのため、投資にあたっての元本は少なくて済む、と言える面はあります。なぜ、額面以下なのかというと、世の中にプラスの金利が存在するからです。

債券の性質上、キャッシュフローが明確であるのはとても大きなメリットです。もちろん債券でも価格は日々変動しますが、最終的にいつ、いくら返ってくる予定なのかがはっきり見えているのは貴重です。特にゼロクーポン債の文脈では米国債などの国債が目立ちますから、元本が返ってこないことを想定している人は稀でしょう。もちろんリスクはゼロではありませんが。

ゼロクーポン債のデメリット

デメリットとまで言えるのかは分かりませんが、通常の債券に期待するような、定期収入はありません。利益はキャピタルゲインのみによって成り立ちますから、それがいいのか悪いのかは人によるとは思います。

一般的な債券のキャッシュフローは利子支払と元本償還によって成り立つため、利子も元本に見立てるならば、一つの債券のキャッシュフローを分解すれば複数のゼロクーポン債に再構築することはできます。分解されて流通しているものをストリップス債と言います。キャッシュフローを分解することにより、一つ一つの取引額も小さくできますが、こういった一手間を加えることに手数料がかかっていることも多いですし、分解して一部のパーツだけを取引しているようなものなので、流動性が低下する(つまり、売買に余計な費用がかかる)ことも考えられます。利用している証券会社独自の取組であれば、いざというとき他社への移管がしづらくなることもあるかもしれません。

購入してしまう人が多い理由

ゼロクーポン債には利子がありませんから、世の中に金利が存在する分、現在価値に割り引かれて価格が形成されています。割り引かれて、というところが、すなわち安く取引されている、と思ってしまう人が多いわけですが、ここでいう割り引きは、市場金利を加味して行われるので、つまるところ、適正価格に調整されているだけであり、”安い”というのは少し違う、と考えて良いでしょう。そして時間が経てば価値が上がる、ようには見えるわけですが、銀行に預金を預けておけば少しずつ増えていくのと性質としては似ています。

ゼロクーポン債の留意点

もし「割引」という概念を理解していないのであれば、ゼロクーポン債への投資リスクを理解したとは言いづらいでしょう。一般には年限を長くすればするほど割引幅は大きくなり、したがって安く見えることになりますが、果たしてそれが適正な安さなのかを判断する基準を持っているのかどうか。

ゼロクーポン債が複利で増える、という書き方を目にすることもあります。複利計算で割り引かれているのは事実ですが、時間とともに増えるかというとそれも金利動向次第です。

ゼロクーポン債を勧められる人の多くは不思議と10年超の満期、すなわち超長期に偏りが見られます。債券自体に興味を持つ人が保守的な傾向があるとしたら矛盾でしょうか。6ヶ月〜1年くらいの短期であれば自然な気もしますが、10年超の債券を取引している人というのは他にどんな投資家がいるでしょうか。外部格付けが良いからと言って、そもそも格付けは何年先の見通しに触れているものなのでしょうか。何十年と持ち続けるにあたって十分なリターンを得ているのか、リスクを加味して考えてみると良いでしょう。その間為替が一方向に進むことを勝手に想定していませんか。

まとめ

利子があることを喜ぶ投資家もいれば、利子がないことを喜ぶ投資家もいる、というのはとても興味深い点ではあります。証券会社の立場からすれば仕組債のようなより複雑な商品を提供して後でトラブルになったり当局から調査が入ったりするくらいなら、シンプルに投資家に訴求できるものがよい、というタイミングなのかもしれません。ゼロクーポン債が一種の流行り物なのかどうか、注目してみておきたいと思います。

↓ この記事が気に入ったらシェア ↓