誰でも平等に情報が与えられる時代に、わざわざファイナンシャルアドバイザーにお金を払って指南を受けるなんて、まるで「愚か者の税金」だという見方をする人も過去にいたことを思い出しますが、本当のところはどうなのでしょう。私自身、提供できている価値について考えることがあります。

確かに万人に資産運用の機会が幅広く、そして安く提供される時代になりました。

このことは医療の世界でもジェネリック医薬品ができ、そして薬局でも、あるいはコンビ二でもそれなりの薬が手に入るようになったこととよく似ているように思います。医者にかからなくても病気を治せる機会は増えているのです。そのことは認めざるを得ません。あるいは健康療法だって万能になりつつあるかもしれません。

ただ、やっぱり薬局に行って似たような製品を比べていると、薬剤師の方が声をかけてくれ、薬の強弱について、あるいは組み合わせについて教えてくれ、結果として多少値段は張るものの良い薬に出会うことができるときもあれば、医者にかかるべき病であることが判明するときもあります。

もちろん、最初から医者に行くと決めてかかる必要はないのです。年齢を経て、喘息の自分の場合、この薬は合わないのであの薬を使う必要がある、あるいは子供の頃に予防接種をしているのでこの病気にはかかりづらい、など自分のことをよく知れば、自分自身の判断で排除できる可能性があるのも事実です。母子健康手帳に救われたこともあるのでないでしょうか。今のあなたは、原因不明の病気を恐れる幼少期とは違っていて当たり前なのです。

ただし、それはあなた自身の人生という積み上げの産物です。資産運用の話にしても、同じことが言えるのでは私自身は思っています。

世の中には資産運用の術、あるいは投資をして稼ぐ術がいくらでもありますが、適切なものが選べているでしょうか。そしてそれはどのような点で“適切だ”と言えるのでしょうか。

副作用があってもすぐに治る?時間はかかるが苦しまない?入院や手術を伴う?費用が安く済む?傷口は残る?

医療の世界にもクオリティ・オブ・ライフ(QOL)というものだってあります。ただ、治ればいいというものでもないのです。

資産運用の世界もただ資産が増えればいいというものでもないのです。そこで、新しい試みとして、自分だけのウェルスカルテ(財産診療録)を作ることを考えてみてはどうでしょうか、という話をここではしてみたいと思います。

ウェルスカルテ(財産の診療録)とはどういうものか

皆さんは、資産運用口座を開くときに、過去の資産運用の経験について聞かれたことはないでしょうか。あるいは現在の資産の状況を。

しかし、そこで思います。経験したことがなければ特定の資産運用ができないのだとしたら、最初にどこで経験をすればよいのかと。

ウェルスカルテを作る目的は、あなた自身の資産運用経験とそのプロセスに関する記録を残すことで、あなたにとって適切な資産運用の術を見つけることにあります。あるいは過去と違う資産運用の手段を試すときの指針にするものです。あるいはもう少し現実的な観点としては、資産が生まれた経緯(Source of Funds)について記録をするものです。

例えば、「インデックス投資をしましょう」というのは風邪薬の処方であると個人的には思っています。多くの場合は、風邪は風邪薬で治ります。私だって風邪薬を飲んどけば治る!と思うことは結構ありますし、大体気づいたら治っています。資産運用もインデックス投資による、例えば長期・積立・分散を通じて大きな失敗をしないかもしれません。しかし、よく考えてみるとインデックスにも色々あるし、インデックス投資が最適であったという結論は導き出せません。

私自身は「資産運用の伴走者」という言い方をよくしますが、実際に走っているのはあなたです。そしてトレーナーの立場に立つ私はあなたにどのような声をかければいいのでしょう。多分初めて会った人であれば、いきなりフルマラソンを走ってくださいなどとは言いません。まずは準備体操をして、そして体力測定をします。体力があまりなかったとしてやるのはトレーニングばかりではありません。もしあなたがお酒をたくさん飲むのであれば、飲酒量についてもアドバイスをするかもしれません。私はテニスをよくするのでテニスに例えるならばいきなり試合はしません。ラリーをして、相手のレベルを測ります。一緒に練習をしながら、ある一定のレベルに達したのであれば、また違うトレーニングの提案をしてみることになります。

ちなみに、あなたがプロであったとしても、トレーナーである私の存在意義はあります。ご自身のことを投資玄人として分類し、アドバイザーを圧倒できる、と考える人も中にはいますが、これはあまり得策ではありません。もちろん私は私自身の結果のために試合をすることはあっても、あなたの代わりに試合に出場できるわけではないからです。プロをプロとして活躍させるのもまたトレーナーの役割です。

病院のカルテは持出厳禁だが、ウェルスカルテは持出自由

ウェルスカルテの存在は最初は何のためにあるのか、と思う人もいるのが事実です。

「私は喉が痛い、だから痛み止めを処方してもらいに医者まで来たんだ」という人と何も変わりません。このときのカルテは副産物にすぎません。

もちろん、望み通り痛み止めをゲットして解決するときもあるでしょうし、もう二度と同じ病院に来ないこともありますが、それもまた一つの記録として残っています。○歳の冬に喉が痛くなり、△という痛み止めを使って、副作用なく症状が改善した、というものです。

つまり、ウェルスカルテは、年齢を経たときほど役に立つ、と言えるものなのです。

もちろん、年齢を経ても改めて”初診”で医者にかかることもあるでしょうし、”セカンドオピニオン”をとることもあるでしょう。

ただ、ウェルスカルテはあなた自身の記録として残していけるものです。

病院のカルテは基本的にその病院を出ることはありませんが、資産運用の世界にもそれは多少あるかもしれません。お抱えのアドバイザーはあなたから得た情報を他の人に共有することはしないかもしれません。あるいは医者と違ってカルテなどというものをちゃんと残してはいないかもしれないですね。

だから、ウェルスカルテはあなた自身があなた自身の財産の一つとして作っていく必要があり、そして持出自由な状態にしておく必要があるのです。

これは健康かどうか、あるいは資産があるかどうかとは関係がありませんから、若いうちから必ず取り組めることの一つです。

自分だけのウェルスカルテ、作ってみてはいかがでしょうか。