年齢を重ねると、資産家は相続のことを意識し始める。というより意識し始めた方がいい。相続対策は10年以上はかかると思っていた方がいいだろう。
若いうちは資産運用にかかる費用(コスト)は勉強代と思って大目に見て、それを上回る運用利益を上げることに一生懸命になったかもしれないが、投資家としての知識と経験を手にすると、やがて費用にも意識が向き、できるだけ費用を下げて運用することを志すようになる。
資産が1億円から20億円くらいならば、海外資産における相続対策の万能策は①海外信託(トラスト)か②海外生命保険になってこよう。
かつては資産管理会社も機能し得たが、こと日本に住まいを持つようになった場合は機能しない可能性が高まっているし、そもそもプロベート(検認裁判)を回避する選択肢としては①か②になってくる。プロベートの費用は決して安くなく、そして時間という費用がかかる。プロベートを回避するという大前提としての相続対策を施した上で、資産管理の費用を押さえにかかるのが得策であろう。
②海外生命保険の場合は語るべきことはさほど多くないので、海外信託(トラスト)を使って資産管理の費用を抑えることについて考えてみたい。翻って、本来の目的である、より多くの資産を残す、ということに寄与しよう。下げられるポイントは大きく分けて3つある。
目次
海外信託(トラスト)の費用を下げる
シンプルに考えると、相続対策として海外信託(トラスト)をくっつけるのだから、まずはその費用を抑えたいと考えるのは自然だ。これまでと同じことをするのに対して、付加サービスをつけるのだから。
海外信託(トラスト)を提供するのは一般には信託会社(トラスト会社)であり、その多くは香港だけでなく、セーシェルやジャージー島、マン島などオフショア地域に複数の拠点を持っている。わざわざその地域に出向かなくてもサービスは受けられることが多いので、信託会社に対して信託の設立場所毎の相見積もりをしてしまえばいいだろう。
ただ、相見積もりという数字上の問題で答えが出ることは正直あまりないかもしれない。信託会社としてのノウハウは固有のものではないので、日本人の担当者がいるか、そうでなくても対応が良いか、あるいは信託会社として歴史があるか、などの方が結果的には印象に残るのではなかろうか。会社によってはタイムチャージを要求したり、見積もりにはなかった費用を後から乗っけてきたりもしよう。このあたりは弁護士事務所などとよく似ている。
このような会社固有の問題、属人的な問題を除けば、海外信託(トラスト)の費用は、設立する信託の種類によって決まる。その種類を決めるのは、そもそもどのような資産を信託を通じて管理したいかによる。保険なのか、証券口座なのか、プライベートバンク口座なのか、はたまた自社株式なのか、貴金属なのか絵画などのコレクションなのか、という点である。どこまでの資産を信託し、どこまでの資産を信託しないか、それが最終的には信託(トラスト)の費用を決めてこよう。
プラットフォーム(プライベートバンク)の費用を下げる
信託会社そのものは資産運用というサービスは提供しない。ライセンス形態として全く異なるサービスだからだ。そのため海外信託(トラスト)を利用した上で資産運用をしたければ、プラットフォームを決めなければならない。そのプラットフォームの名義人を設立する信託にすればいいからだ。
プラットフォームは証券口座だったりプライベートバンク口座だったりする。保有資産が多ければ多数のプラットフォーマーと交渉ができ、結果的に費用の引き下げは実現しやすいと言える。いや、そもそも業界全体としてプラットフォーマーに支払う費用は極限まで低くなっていく傾向にあるので、今使っているプラットフォームの費用が高いのであれば乗り換えをするだけで随分と改善するかもしれない。
資産運用(アセットマネジメント)の費用を下げる
海外信託(トラスト)もプラットフォーム(プライベートバンク)も結局のところは“ハコ”でしかない。ハコ以外の費用としては当然“中身”の費用にも気を配るべきだ。人によっては、ファンドの管理費などを嫌気して社債などへ転換する人がいるが、そもそも海外信託(トラスト)という別の名義人を持ってきた時点で、資産の寿命は伸びている。自分自身の死と同時に現金化される心配がないのであればそのことを考えた資産運用の形態にはしておきたい。何よりそれが信託の価値であるからだ。
とはいえ資産運用の費用を下げることはできる。投資一任をするにしても余計な売買コストがかからないようにするだとか、ファンドやETFを選ぶにしても管理費が少ないものを選ぶなどである。いちいち書面でやりとりをせず、オンライン対応してくれる、などもひょっとしたらこの中に入るかもしれない。
結論
3つほどに分解して資産管理の費用を考えてみたが、もちろんそれぞれを最小化することは可能だ。大きなハコと小さなハコを値切り、そして中身についても値切る。
一方でもし大局的に見ることができるのであれば、削るべき費用とそうでなくてもいい費用があるかもしれない。例えば、しっかりとした運用に重きを置くのであれば、そこに対しては費用を払い、逆にハコの部分に関しては極限まで費用を削ることである。逆に、あらゆる資産を適切に承継したいのであれば海外信託(トラスト)の費用は削るべきではない。
あるいはこの3つのバランスを考えることで、最終的に3つそれぞれの費用をそれぞれで最小化したよりも、さらに費用を抑えた組み合わせが望めるのであれば、3つのバランスをプランニングすることに対して費用を払う、という道もある。
冒頭触れたが、相続対策は10年以上はかかると思っていい。ただ、人はいつ死ぬか分からないので、今始めるべき、というものはなく、意識を向けるのは早い方がいい、というのは確かだろう。