香港では資産運用を通じて得た利益(キャピタルゲインやインカムゲイン)については基本的には課税をされない。このことは資産を効果的に増やす上で極めて重要な事実である。

加えて、働いて稼いだ給与に対しても最大で17%しか課税されないため、働けば働くほど税率が上がる日本の累進課税とは大きく異なることがしばしば指摘される。

日本のように税率が高ければせっせと節税を考える人がいるが、そもそも税率が低いと意識が向きづらいというのはなくはない。

ただやっている人はやっているタックスマネジメントというのもあるにはある。

本稿では、香港で所得税控除対象になる資産運用について解説する。

リスクをとって資産を増やすのと比べてどのようなメリットがあるのか、あるいは適性があるのか確認してもらいたい。

強制積立金(MPF)

MPFは雇用されている人にとっては法令上の義務である。毎月の給与のうち5%(上限HKD1,500)を従業員が、5%を会社が負担する。ただし、母国で既に年金保険料を支払っている場合は香港での義務は免れる。なお、強制の5%以上の金額を会社から任意負担してもらっている人もいる。

MPF自体は2000年に導入された制度で、香港市民が老後の年金を作ることに一役買っているとされる。従業員の負担分に関しては、税務申告の際に税控除対象(上限HKD18,000)となっている。

MPFの資金はいくつかの投資商品に配分するのが一般的であるが、あまり深く考えて決めていない人もいる。

もし資産運用のことを学び始めた人がいるならば、なんとなく選んでしまった資産配分について理解を深めてみることから始めてもいいだろう。

所得税控除枠(Tax Deduction)

MPFの強制分以外にも所得税控除となる枠は別途存在する。

現在の税控除枠は

【各税務年度HKD60,000】

に設定されており、この枠に該当する資産運用とは、対象となる

【個人年金保険QDAP】と【任意のMPF増額】

だけである。

この枠が設定されたのは2019年の初めなので、まだ知らない人も多いかもしれない。

ちなみに、個人年金保険は所得税控除枠の対象にならないものもあるので注意が必要で、対象になるものはQualified Deferred Annuity Plan(QDAP)のマークがプランの冊子に書いてある。

結婚した夫婦でそれぞれ稼ぎがある場合、税務申告の際にJoint Assessmentをするケースもあるかもしれないが、その場合は最大で年間HK120,000までの控除が認められる。

このケースであれば、例えば旦那がHKD70,000分の年金保険を買い、妻がHKD50,000分の年金保険を買った場合でも、HKD120,000の控除枠を使い切ることができる。

所得税率が17%であったならば、HKD120,000×17%=HKD20,400だけ税金が安くなる計算である。

つまり、HKD120,000分の年金保険を実質HKD99,600で購入できた、という見方もできる。

もちろん控除枠を使おうが使うまいが、年金として受け取る金額は変わらない。忘れずに税務申告の際に申告したい。

香港はそもそも所得税率が低いが、それでも支払う税金は減った方が手取りが大きくなるので、使える枠が余っているのであれば検討すべきだと言える。

若い人は特に、給与から資産運用に回せる部分が少ないこともあるので、年金保険料の一部を税金から工面していると考えればやはり取り組むメリットは大きい。

税控除枠利用に適していない人とは

逆に税控除枠利用に適していない人とはどのような人なのであろうか。

所得税控除枠の設定目的は、自分年金づくりの促進にある。香港には国が運用してくれる年金というのが存在しないので、老後の面倒は基本的に自分でプランニングをしておかなければならない。QDAPにしてもMPFにしても基本的には香港で老後を過ごすために積み上げていくものだと考えていい。

香港で働いて所得税を納めていれば、所得税控除枠を使って得をした気分にはなれるが、注意したいのは、その【受け取り】である。

年金である以上、老後に受け取るものが多い。特にMPFは65歳以上でなければ原則引き出しができないので、老後を香港で過ごす予定のない人には正直言ってあまり魅力的でない。

法令上の強制積立となっているのは単に強制としなければ何も資産形成ができない層が一定数いるからであって、これをあえて増額するメリットがあるかと言われると、その人のライフプランによると言える。

MPFの増額がその後の制約が多いと感じるのであれば、QDAPだけを見てみるといい。所得税控除対象になる年金プランの中にもいくつか種類があり、場合によっては現役世代でも活かせるかもしれない。QDAPの方が幾分と柔軟性はある。それでも数年しか香港にいないというのであれば、保険料の5年払いなどは意味が薄れるかもしれない。

税控除は得られるとしても、税控除メリットを感じられない人もいる。どういうことかというと、例えば香港駐在している人の中には、香港での所得税や諸々について会社が全て面倒を見ているケースがある。面倒な計算はどうあれ、手取りが確実に決まった金額が入っている場合である。

会社の目線ではなく個人の目線で見てみるならば、税控除したところで手取りは変わらない。この場合は税控除のないプランもフラットに見てメリットがあるものを選べば良い、ということになる。

次に、税控除が得られる分(HKD60,000)以上に取り組む意味があるか、という質問はあり得るが、その答えはそもそもあなた自身がどのような資産運用計画を持っているのか、による。

税控除が得られるプランというのはつまるところ政府が認可している、万人向けの商品である。保守的な運用に基づいて着実に運用することになっているケースが多い。

リスク許容度がそれなりにあり、長期的に資産を増やす予定があるのであれば、税控除対象プラン以外で取り組むことの方が長期的なメリットは大きいと言えよう。QDAPやMPFは年金保険、そして保険は保険、資産運用は資産運用である、という事実はどこまでいっても変わらない。

最後に

色々と解説はしてみたが、細かな注意点も実際にはある。ご自身にとって税控除枠利用が適しているのかどうか、一度考えてみてはどうだろうか。

日本でもそうかもしれないが、節税にこだわることが結果的に資産を伸ばすことに繋がるとは限らない。プランニングをしっかりとして長期的な目線で取り組むことが重要になってくる。

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