プライベートバンクに憧れて口座開設しても上手く利用できるとは限らない。実際に利用する人が困りがちなことは何か。

借入金利の上昇

プライベートバンクでは、保険にファイナンスを行うプレミアムファイナンス、株式や債券などの証券にファイナンスを行う証券ファイナンスなど、様々な形で借入を行うことができる。

例えば1億円の資産に対して、5千万円の借入ができるのであれば、それをさらに投資に回し、合計で1億5千万円の投資に膨らませることが可能である。投資利回りが10%で、借入金利が2%であれば、利益が1,500万円で借入コストが100万円となり、ネットで1,400万円の利益となる。そのまま1億円を投資していれば1,000万円の利益だったのだから、これは大きな差であろう。

借入金利が低いままであればファイナンスは人気があるし、悪くないように見えるが、残念ながら直近は借入金利の上昇が見られる。先ほどの例で分かる通り、借入金利が上がればファイナンスの意味は薄れるし、まして投資利回りが落ち込めば火の車になりうる。

一方、銀行にとっては高い金利で借り続けてもらえれば大きな収益である。

米ドルの金利が高いので、少しだけ金利の低いユーロなどで借入をすればよい、などという話もよく聞くが、問題は資産の通貨と借入の通貨が異なっているせいで、為替の影響を受ける可能性がある点である。金利よりも為替の方が大きく動くし読みづらい、ということを忘れてはいけない。

レバレッジが逆流

レバレッジといえばFX取引などでよく聞く用語だと思うかもしれないが、投資の世界には自らが持っていないお金を借りてきて投資をする、という選択肢がある。もちろん金利をつけて返さなければならないが、それ以上に稼げばいいわけである。つまり、借入金利は要求収益率のようなものに置き換わる。

当たり前だが、リスクをとって投資している以上、元本を毀損する可能性もあるわけで、上手くいかなくなるときのことを考えておかねばならない。レバレッジが逆流する瞬間である。

借入金利とは経済の根幹たる短期金利に連動しているケースが多い。固定金利でレバレッジできるケースはほとんどないだろう。

短期金利とはあらゆる資産価格に影響を与えうる非常に重要な要素であり、それゆえに一旦レバレッジの“勝利の方程式”が崩れると歯止めが効きづらい。

預金は呼び水としてどうなのか

銀行はお金を預かるところである。しかも今はその預金金利が高いとなれば、せっせと預金集めをするプライベートバンクもあるという。

一般の商業銀行でも大口預金には高い金利が付与されるが、プライベートバンクの場合、潜在的に大きな資金しか扱っていないので、そこで優位性はあるかもしれない。

現実問題としては、預金を集めるだけでプライベートバンクとして十分な収益があるとまでは言えないだろうから、結局のところ呼び水である。一定の期間が経った頃に頃に収益を稼ぐための提案が始まるわけだ。

預金くらいだったら安全だと思って口座開設するのであれば、リレーションシップマネージャーとの駆け引きは覚悟しておいた方がいい。

口座開設の難易度

多くのプライベートバンクでは、口座開設時に顧客本人との実際の面談を要求する。これはそもそも金融取引におけるコンプライアンスの根幹にある、本人確認という作業が対面で行われる必要があることを意味している。

どんなにインターネット技術が発達したところで、書類の偽造、身分の詐称、などは分からない。実際会ったらそれが解決するのか、というのはこれまた疑問符であることに変わりはないのだが、少なくとも確認作業を怠ったと言われる可能性は減り、概ねのリスクは回避される。

プライベートバンクの顧客が持つ資金の性質についても然りである。決して小さくない金額が出来上がるのにはそれなりに理由がある。天から降ってきたという話ではないのだから、しっかり説明ができ、その裏付となる資料が存在しているべきである。これまで自分のお金を好きなようにあっちへこっちへ動かしてきた顧客も、プライベートバンクに出会った瞬間、パタっと足が止まることもあり得る。目の前に現金を積み上げれば口座が開設できるわけではない。

ビシッとスーツを着こなす必要は全くないが、それでもプライベートバンクと付き合うにあたって、“背筋を伸ばす”必要がある局面というのはそれなりにある。

結局プライベートバンクに何を求めるのか

プライベートバンクに何を求めているのかは人それぞれである。攻めるも守るもできるし、それは担当者との相性の部分で決まることも多い。

究極論、銀行である限りにおいて、お金をいくら引っ張れるか(借りられるか)次第だろう、と言う人もいる。ただ、そういった借入ポジションを持つほどに、借入金利が上がったとき、取れる選択肢は少なくなってくる。

プライベートバンク側は借入ポジションを解消させることに前向きだろうか。そういうインセンティブは少ないと思う。むしろ、顧客の資産価値が大きく毀損されて、回収が困難にならないかを気にする。危うくなったら資産を強制売却して返済に当てるだけの話である。

むしろ、プライベートバンクの中にもローンに対して後ろ向きな見方をするところもある。どんなに担保をしっかりとっていてもローンはローンであり、貸し倒れる可能性はある。もし貸し倒れて損失が出れば経営が不安定になる可能性があるし、すなわち顧客の資産を守れないということに繋がりかねない。普通の銀行であれば一定の確率で貸し倒れを想定して挑むかもしれないが、プライベートバンクという業態からして避けて通る例もある。他の利用顧客がどのようなことをしているかについても聞いてみるといい。一見関係ないようで関係してくる話である。

レバレッジは確かに資産を大きく伸ばすための一つの方法ではある。ただ、経済環境などを鑑みて適切に利用することが必要である、というのは言うまでもない。

プライベートバンクの顧客でも、投資でリスクをとることと、レバレッジでリスクをとること、それぞれの面でしっかりとした管理ができていないのであれば、関係性を再考するに値する。常に利益相反の関係は起こり得るからである。

資産家だろうとそうでなかろうと、無理な借入は身を滅ぼす。一方で、無借金だと言い切って、ただ敬遠するだけではなく、負債に対する考え方を身に付けること方が大事である、とここでは言っておきたい。お金は正しく借りる、に尽きる。

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