オーストラリアでの税務上の居住性判定について。渡航や移住を検討している人はこれまでと同じにはならないことに注意したい。
目次
税務上の居住性(Tax Residency)
今回は先にケーススタディから見てみよう。何がポイントなのかがわかるはずだ。
ケーススタディ1 45日ルール
康彦(仮名)は日本人であり、香港人の奥さんと一緒にワインの輸入会社を経営している。
奥さんと息子は勉強のため、オーストラリアへ移り住んだ。康彦が彼女らの住むアパートをオーストラリアに購入した。
康彦は証券口座で投資ポートフォリオを持っており、ウェルスマネージャーによる投資一任で年率6%のリターンを出している。
康彦は香港在住であり、オーストラリアには毎年2ヶ月程度行き、家族と一緒に過ごす。数年後にはオーストラリアへの永住を計画している。
注意点
康彦は、オーストラリア居住者(Australian resident)と判定される可能性が高い。なぜなら、今年45日間を越えてオーストラリアで過ごすからである。
居住者判定(residency test)において、少なくとも2つの客観的要素を満たすと考えられる。
- 近親者がオーストラリアに住んでいる
- 本人がオーストラリアの不動産を保有している
康彦がオーストラリア居住者であると見直される場合、全世界所得課税の対象となる。
対処
オーストラリア居住者と認定される前に、香港内の投資ポートフォリオをプライベートボンドに入れてしまうことで、その後発生するキャピタルゲインに対する課税の心配をせず、自由に金融市場取引が可能となる。ここでの教訓は、本人がオーストラリア外に住んでさえいればよい、というものではないということである。
ケーススタディ2 183日ルール
ケビン(仮名)はオーストラリア人であり、2000年から香港に住んでいる。奥さんは日本人であり、子供が二人できた。
香港では家族の住む自宅を購入し、オーストラリアの不動産は全て売却してきた。香港のプライベートバンクには投資ポートフォリオが存在する。
オーストラリアにいる両親の健康状態が思わしくなく、頻繁にオーストラリアに帰ることとなったので、過去2年間は半分くらいの時間をオーストラリアで過ごした。
香港は現在渡航制限が厳しいため、現在はオーストラリアに留まっている。
注意点
オーストラリア人として、ケビンはオーストラリアでの滞在日数を数えることが重要で、それによってオーストラリア居住者かどうかが判定される。
現状からすると、オーストラリア居住者であると判定される可能性は極めて高い。
対処
ケビンはオーストラリア居住者と判定される前に、プライベートバンクからプライベートボンドへ資金を移し、10年以上保有することができれば、その後発生するインカムゲインやキャピタルゲインにはオーストラリアでの所得税の対象とはならないだけでなく、引き出しや解約を行った場合でも税金はかからない。ここでの教訓は、滞在日数は極めて重要である、ということである。
法改正の要点
オーストラリア政府からは2021−22 Federal Budgetにおいて、個人の税務上の居住性判定についての変更がなされる。オーストラリア国外にいて、今後オーストラリアに渡航・移住する場合に影響を受ける人は多いため、予め知っておくと良い。
税務上の居住者(Tax Resident)とは特定の法域において、個人としてインカムゲインやキャピタルゲインを申告する必要があるかどうかを決めるものである。
オーストラリア居住者と判定されるならば、実際にオーストラリアに住んでいようといまいと、オーストラリアに由来する所得があろうとなかろうと、全世界所得課税の対象として扱われる。
税務上の居住者判定においては、まずは1課税年度において183日以上をオーストラリアで過ごしたかどうかがポイントになる。
次に183日より少ないものの45日以上を過ごした場合をチェックポイントとする。それ以外にも実際にオーストラリアにいたこと、家族の状況や住居の状況、経済的な利害(事業等)をもとに総合的に判断される。
仮に本人がオーストラリアに住んでいないと思っていても、オーストラリア居住者であると判定されれば、香港における投資ポートフォリオも香港で課税されずともオーストラリアで課税される。
国際ファイナンシャルアドバイスの重要性
本稿ではオーストラリアに関する法改正のインパクトについて触れたが、この手の話を個人が把握しきることははっきり言って難しい。
昨年と全く同じことをしたとしても、オーストラリアの居住者と判定されるかどうかは変わってくる、のである。それに、オーストラリアで導入されるこの考え方は特殊なわけではなく、他国で同じように課題になってくることはある。様々な可能性を多面的に考えるのはそれなりに労力が必要である。
グローバルなコンテクストの中で生活するのであれば、自身の状況についてよく把握する国際ファイナンシャルアドバイザーがいることは非常に心強い。気づいたときには対応が遅れているということにならないように、前もってアナウンスメントができるからである。
とりわけ新型コロナにおける渡航制約を踏まえて、本来であればコントロールできたライフスタイルもそうでなくなっているケースは多い。あるいは渡航制約がなくなったといって動き始めるケースもある。
非常事態だから事情を話せば何とかなるのではないか、見逃してくれるのではないかという独自の理屈は残念ながら法的には何の説得力もないことは知っておいてもらいたい。