近年、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税行為や租税回避行為が問題となっている。海外資産を持つことが悪なのではないが、世間の関心や批判が高まっていることを意識し、そのために整備されたCRS(共通報告基準)を知っておきたい。

CRSは金融機関の義務

まず、このテーマが初めての人は、CRSに関する基礎知識の部分はこちらの記事も参考にしてもらいたい。

CRSを知るべし、と言いつつ誤解してはいけないのは、CRSは対象となる金融機関による報告義務であり、金融機関利用者その人の義務ではない。(金融機関利用者その人による報告義務はまた別途存在し得る。)つまり、内容は金融機関が報告が必要だと判断すれば報告され、利用者としてCRSを知ろうが知るまいが処理されている。そうでなければ関わった金融機関が脱税幇助したとして名前が世に出る可能性があるからだ。金融機関としては是非とも避けたいので、利用者に正しい申告を促すことになる。

金融機関がそれを不適当だと思えば金融サービスを受けられなくなる可能性があるし、利用者が意図した通りにしか金融機関が報告義務を果たさない訳でもない。利用者としてできることは金融機関に適切な情報開示を行うことである。

税法上の居住地国を把握する

金融機関利用者その人は、金融機関に対して税務上の居住地国とその税務番号を申告する。税務上の居住地国に該当するかどうかに関する解釈は各国によって異なるが、まずは、住所が置かれ、現在まで引き続いて1年以上居住がある場所、と考えていい。また、税務というと税金何でもなのかと幅広く聞こえるが、一般には所得税の話ではある。

ただし、税務上の居住地国が複数ある、ことも当然ながらあり得るし、税務上の居住地国が今住んでいる国と異なることもあり得る。そうした判断の複雑さがあるなかで、虚偽の記載は罰せられる可能性があることは知っておきたい。

タイブレーカー・ルール

租税条約が締結されている国同士で、双方居住者(Dual Resident)、つまり両方の国の居住者である場合、居住地振り分け規定としてタイブレーカー・ルール(Tie-Breaker Rule)が定められていることが多く、これにより二重課税が防止されることにも繋がっている。ただし、租税条約に基づく判断は最終的には両国の税務当局が協議をして決めるものであり、必ず合意に至る保証もない。納税者の立場としては、主観的判断に対して、あるいは一定の税務アドバイスを受けたとしても、税務否認される可能性がある、ということは知っておきたい。双方居住者(複数国居住者)の問題はそれほど単純ではない。

香港における税務上の居住性判定

香港において、税務上の居住者として扱われる一般論としては、2点であり、

  • is ordinarily resided in Hong Kong (“Ordinary Resident Test”); OR
  • stayed in Hong Kong for more than 180 days during the relevant year of assessment or for more than 300 days in two consecutive years of assessment (one of which was the relevant year of assessment) (“Number of Day Test”)

つまり、①香港に通常の居住を行うか、②一課税年度で合計180日より多く滞在するか、あるいは連続する二課税年度で合計300日より多く滞在するか、とされている。①は一般には外国人としてHKIDを維持できている状況と近似するが、もちろん税務上の解釈は異なり得る。

Hong Kong Residency – OECD

利用者としての自衛策

居住国が変わることはライフスタイルの変化として仕方のない面があり、リスクがゼロになるわけではない。が、第三者から見てどうなのか、を決める手がかりとしては、「恒久的住居(Permanent home available)」「重要な利害関係の中心(Center of Vital Interest)」「常用の住居(Habitually abode)」「国籍(Nationality)」がどこかであるのは各国の共通した見解ではある。

つまり、仕事・家族・生活の拠点が一致させることは、問題をシンプルにする自衛策となり得る。

一方で、そうでないライフスタイルを送っているのであれば、リスクが高まっていることは理解しておく必要がある。単に滞在日数だけをカウントしていればよい、という考え方は安易である、とは言えるだろう。

海外資産への課税

CRSそのものは課税の仕組みではなく、海外口座の把握のための仕組みである。国内口座と異なり、源泉税なども取れないため、課税が十分でない可能性がある、ということである。

したがって、海外口座を把握されたところで、納税が正しくなされていれば何の問題もない。しかし、そのためにはまず居住者という考え方があり、そしてその次に海外資産の所在地や所得の種類などが影響をしてくる。海外資産は自ら税務申告をしなければならないものが多い。

もちろん、CRSに捕捉されるのは金融口座ではあるが、その他の投資に関しても、いずれは利益ないし売却資金などの金銭の形で金融口座に戻ってくることは想定される。CRSを知った上で海外資産を持つことは非常に重要であると言える。

*なお、本稿に記載した内容は、正確であることには努めているものの、各人の状況に応じてプロフェッショナルによるアドバイスを受けた上で判断することが推奨されるものであり、必要であればご紹介をさせていただく。

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