香港でファイナンシャルアドバイザーをしていて最近よく聞く課題として、オフショアでの投資とリロケーションが挙げられる。その中でも今最も大きな流れとなっている、BNOパスポート保有者の英国移住について触れてみたい。

BNOパスポートとは何か

British National Overseas Passport、通称BNOパスポートとは、1997年の香港返還に先立ち、1985年に作られた香港人向け英国籍の一種類である。BNOパスポートは本来、文字通り旅券の役割は果たすものの、英国で住んだり、働いたりするための権利を与える役割までは持っていない。

しかし、2021年1月31日の英国政府の発表により、BNOパスポート保有者とその家族が、BNOビザを申請することで英国で住み、働き、そして学ぶ、さらには英国の市民権を獲得するための道を開くことが決定された。

つまり、イギリスが香港人を受け入れることを認めたのだ。

この機会を逃すまいと、英国になだれ込む香港の人たちがいるわけだ。

香港人の移住先はどこか

1997年の香港返還時も香港の人たちは海外へなだれ込んだとされる。その後、香港の状況を見ながら生まれ育った土地に戻ってきた人も多いが、結果としてカナダやイギリス、オーストラリアなどの国籍を取得しながら、“香港人”としての人生歩んでいる人は少なくない。

2019〜2021年を見るにつけても、似たような現象は散見される。

主にはやはりイギリス、カナダ、オーストラリアを移住候補地に挙げる人が多いようだ。受け入れに積極的であること、英語圏であること、行き先に香港人の知り合いがいることも一つの理由ではあろう。

日本が大好きな香港人も移住先に日本を選ぶことはあまりない。日本企業の職場環境について皮肉たっぷりに語る香港人も少なくはない。

実際のフライトと資産のフライト

英国行きのフライト(飛行機)は常に混雑している、という話も聞く。もちろん、コロナでフライトの便数が減少しているというのもあるが、それでも様々な理由で英国に向かう人はいる。

これまでも今も一つの大きな流れは留学である。香港人の場合、域内で学ぶよりも多くの就学機会が海外にはあるという。そのためイギリスやカナダにわたって学ぶ人が多いのだ。日本でいう海外留学ほどもてはやされるものとは限らない。そこに標準があるのだ。

移住に先立って起こるのは資産のフライトである。フライトというと逃避しているイメージがつきまとうが必ずしもそうではない。

生活の拠が移るのであれば資産の置き場所も変えた方がよいときがある。

この場合、直接英国に向かう資産のフライトもあれば、オフショア地域に流れるものもある。英領オフショアは世界に点在し、英国本国側での取扱いが法律的に定められているものもあるからだ。

一方で、MPFと呼ばれる香港の強制積立年金はこのBNOパスポートをもってして解約することは難しいともされる。なぜなら、香港を永久に離れる意思を必要とするからだ。

これは駐在で働く人も同じようなロジックが当てはまり、香港で老後を過ごす気がないのであれば、中途半端に香港で積み立てるよりは本国の年金保険料を払い、香港では適用外とする方がよい。もちろん、解約のプロセスは定められているが、基本的には香港で老後を過ごすための制度、と思っていた方が良さそうだ。

英国での実際の生活ぶり

香港で生まれ育った世代にとって幸運であったことは、若くして香港不動産を保有していることかもしれない。

多額の借入をしてでも不動産投資に励んだことで、世界一高いとも言われる香港の不動産を資産に持つことができているため、海外で生活するだけの収入を投資用不動産から得ることが可能であるし、売却して現金にしてしまえば英国の郊外の一戸建てくらいは十分手が届く。

物価もロンドンといった都市部なら高いエリアがあるが、少し外れれば何のことはない。狭い香港に住んだ香港人からすれば新しい土地での生活もそう大変ではないかに見える。

ただし、働くということになると間口は狭くなるケースがある。コロナで傷んだ経済の中、国内の雇用を守ることで英国政府も精一杯であるし、その中で一時的になだれ込む香港人を受け入れるだけの雇用の先はなかなかない。まずは子どもの留学についていき、郊外でゆったりと暮らす親世代の生活が垣間見えそうだ。無事に留学を終えた子どもはきっと英国で仕事を見つけ、独り立ちしてくれることだろう。

移住前に予め知っておくべきこと

移住、というのは文字通り生活の基盤を移す行為である。身体一つで向かおうという気概は称賛できるが、それなりの年齢になると、そうも簡単にもいかない。

家族や資産のことを考えてやるべきことは当然ながら増える。勢いで移住してしまった後に後悔することのないよう、予めプロのアドバイザーについてもらい、プランニングを時間をかけて行うことをお勧めしたい。

最低でも1年前からプランニングがスタートできるとよい。適切な対策をうてるだけで、守れる資産と家族があることを知っておいてもらいたいのである。

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