富裕層の場合、保険契約は毎年見直すことも有効であるとも考えられている。
なぜなら、契約当初にベストソリューションとしたものも、個人の状況の変化によってベストではなくなる可能性があるからである。
保険を見直すというのもさることながら、単に個人の状況の変化について意識することが大事だと言ってもいい。この変化が富裕層の場合は大きいことが多い。
保険のプランニングが適切にできている例はどのくらいあるか、正直に申し上げてそのように感じた例に私は出会ったことがない。
多くの人はなぜ保険を購入したのかと聞かれると、「営業の人に勧められて、悪くないと思った」だとか、「銀行預金よりも利回りが良いのでとりあえず入ってみた」ということが多い。
保険の担当者とはどのような頻度で話すことにしているか、ということに関しても、「何かお互いに用があれば」だし「担当者が変わったので別に連絡をとるつもりもない」が大半だろう。自分と家族を守る保険がこのような状態では正直言って心許ない。
あなたは自分に真に必要な保障額を理解しているだろうか。
是非考えてみて欲しい。
目次
富裕層の保険ニーズとは
保険とは死を扱う金融商品であるが、死というリスクはいつなんどき現実のものとなるかが分からない。そして死のタイミングを想定したとしても、それよりも長生きする可能性だってある。
富裕層にとっての保険ニーズはどのような特徴に裏付けされるのであろうか。具体的には、
- ①資産の増加
- ②検認裁判(プロベート)の回避
- ③債権者からの保護
- ④悪意のある相続人からの保護
- ⑤引き出しの柔軟性
- ⑥死亡保険金の税免除
- ⑦税金の繰り延べ
などが挙げられる。
保険によってカバーされるべき費用
一つ目は、被保険者の死によって発生する負担を相殺すること。例えば葬儀費用、治療にかかった費用、税金(特にその他の資産が換金できるまでに発生するもの)、未払いの個人負債・事業負債などが含まれる。
二つ目は、残された家族がそのままの生活を維持するために必要な費用。最低限の生活費だけでなく、住宅ローンやヘルスケア費用、メンバーシップやヘルパーの賃料など、総合的な生活水準が保てることが必要になる。子どもが成人するまでにかかる教育費もそれには含まれる。
三つ目は、将来予見される費用である。子供の教育費のうち、大学や大学院は最低限の水準は超えるかもしれないが、本来被保険者が生きていたならば子どもには与えてあげたかった環境かもしれない。また、配偶者が老後を安心して暮らせるだけの収入、生前計画していた恵まれない人たちへの寄付、個人的にコミットしたプロジェクトが上手くいかなかったときに発生し得る負荷などもあるだろう。
これらは挙げればキリがないかもしれないが、挙げてみないことには必要な保障額は分かりっこない。
保険に入ることによって、どのような費用がカバーし得るのかに思いを巡らせることは、被保険者が思い残すことなく余生を過ごすことにも役立つだろう。
エステートプランを組む
自らの遺産を誰にどう残すか、というのは確かにエステートプランではある。しかし、遺産の規模と相続人の数は相関関係にある可能性がある。
つまり、もっと重要なことは遺産が相続された後も、家族の調和が維持されることであり、相続争いが回避されることである、と考えておくべきだ。
そのために必要なことは、全ての相続人にとって、遺産の配分がフェアだと考えられる状態に置かれることである。もともと故人とそれほど関係が深くなければ、単に均等に分けられるほうが納得がいくかもしれない。
ただ、遺産の中には均等に分割できないものもある。住んでいた自宅やアンティーク、宝飾品、コレクションなどである。特に、富裕層が保有しがちな“家宝”に関していえば、それは家族全体のものであり、恙無く継承される術を検討しなければならない。
エステートプランにおける保険の役割はこの微妙な差を埋め合わせ、公平に扱うための現金を用意することにあるといっても過言ではない。
より複雑な家族計画と向き合う
保険の見直しをする理由は、保険が常に被保険者以外の誰かのためにあるからであり、この“誰か”が時とともに変わっていくからである。つまり、家族構成は変化する。
配偶者だけなのか、子どもは何人いるのか、あるいはさらにその先の家族も面倒を見る必要があるのか。
家族とはユニークな存在であり、したがってエステートプランはそれぞれのニーズに合うように手作りしなければならない。大切なのは一人で悩むことではなく、配偶者やパートナーとも、将来どのような資産とするかを、腹を割って話し合うことである。
子どもが結婚するまでは面倒を見るのか、子どもの金融リテラシーはどの程度なのか、離婚したらどうするのか、被保険者本人がいなくなった後の家族は本当に同じ状態でいられるのか、などである。
保険と信託(トラスト)の関係
相続対策として保険と信託はよく出てくるが、富裕層にとっては、両方を合わせて用いることが多いかもしれない。
直接、金融資産を信託するよりも、カストディアンやアセットマネジメントの機能を果たす保険を信託した方が、管理が簡便になる。
信託(トラスト)は保険契約の名義人であり、受益人である。子どもは信託の受益人になればいいのである。
一度信託された財産は本人のものではないから、債権者から保護することもできよう。
事業承継とも深い関係がある
会社を経営する富裕層は多いため、残された家族もまた会社を引き継ぐ可能性が高い。そうなると、複数の株主がいて、そこに新たな株主が加わると持分比率だって変わる可能性がある。
意図せぬ人物に会社の所有権が移ることもあり、下手をすれば会社の経営が立ち行かなくなる。
事業オーナーとして事業パートナーに対して保険をかけることで、万が一の際に事業を完全に引き継ぐことができる、という点で保険は役に立つことがある。
さて、ここで触れたのは一例にすぎないが、保険には様々な使い道があることは分かってもらえただろうか。保険契約は比較的長期であるだけに、適切なアドバイスを受けながら検討したいものだ。