GameStop(ゲームストップ)という企業の株式は、価格変動(ボラティリティ)に関して、2022年に入って金融市場で大注目となりました。
果たしてここから投資活動全般に対してどのようなインプリケーションが得られるのか、を解説します。
日本人で同銘柄を保有してこのイベントに直面した人はそこまで多くはないのではと思いつつも、ある種の熱狂がそこには存在し、投資に可能性を見出した人も、あるいは戦々恐々として株式市場を見た人もいるのではないだろうか。
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価格変動(ボラティリティ)とは地震のようなものである
投資の世界では、価格変動(ボラティリティ)のことを「リスク」と呼ぶ。投資で負けることをリスクだという認識を持っているかもしれないが、リスクとは“上下両方の動きの振れ幅”のことである、というのは確認しておきたい。
地震の場合、常にプレートは少しずつ動いているが、プレートとプレートのズレが大きくなったとき、元に戻す力が働いて地震が起きる。地震も予知はできそうでできない、金融市場においても不定期に急激なボラティリティの上昇は起こるが、必ずしも予見可能ではない。震源地がどこになるか、ある程度予測はできても、必ずそこで地震が起こるとまでは言えない。
できる対策はというと、通常は、地震が起きても大丈夫な家に住むか、地震が起きづらい場所を選んで住むか、という話である。金融資産についても同じことが当てはまる。ただ、こと金融資産に関して投資家は意外とボラティリティに対して無防備である、とは言えよう。
ボラティリティの小さい金融資産とボラティリティの大きい金融資産が存在するのはなぜか
金融資産だからといってボラティリティが全て同じ、というわけではない。ボラティリティを生む理由の一つは情報の伝達度合いの違いである。決算発表で株価が動くのは、決算という情報が投資家に伝達されているかされていないかで違いが生まれるからである。
本来、企業活動は毎日行われているのだから、決算というまとまった情報をもらうことにそんなに意味はないように思えるが、残念ながら決算情報を企業が公開しない限り、日々の企業活動の成果を投資家が独自に知り得ることはない。金融資産の価格チャートは多くのケースでは連続性がある(=繋がっている)が、それは情報の伝達度合いの差を埋めようと努力するプロ投資家や金融業者たちがいるからである。ただ、それは完璧ではない。
もう一つは流動性からくる。流動性とは需給のことであり、取引されている当該金融資産の量が少ない場合、少額の取引でもボラティリティを高めることになる。
100円で売りたい人が10人いて、110円で売りたい人が10人いたとしよう、それに対してとにかく買いたい人が5人であれば、100円で買えばいい、ただ、15人いた場合は110円まで価格は釣り上がる。これに対して100円で売りたい人が100人いて、110円で売りたい人が100人いたら、15人の買い手は最も安い100円ですんなり買うことができる。逆に100円で売りたい人が1人しかいなくて、それより高くしても売りたい人がいなければどうだろう、残りの14人の買い手は100円で売りたい人が現れるのを待つか、110円で買う意思表示をする、120円で買う意思表示をする、そして売りたい人が買いたい人の数だけ現れるまで価格は上昇し続けるわけだ。
同じ株式でも米国株式と中国株式ではボラティリティが異なる。ただ、国を選ぶだけでなく、ボラティリティの違いに目を向ける姿勢も大事になってくる。
GameStop(ゲームストップ)に見たボラティリティの脅威
GameStop(ゲームストップ)の話を聞いて、投資家が注目したのはもちろんリターンの大きさである。元来、あの手の仕込みは投資戦略が柔軟なヘッジファンドの得意分野であったが、一般の投資家(ロビンフッター)たちがタッグを組んで仕掛けたのは印象的であった。
相場操縦は悪であるが、投資活動は肯定されるべきである。ただのゼロサムゲームになってしまったことは投機的と言わざるを得ないが、リスクを負っていた以上、それ自体は否定できない。いつでもどこでも起こり得る話である。あえて問えるとしたら、そのリスクに見合ったリターンであっただろうか、という点くらい。
ここでより注目したいのはボラティリティの話である。先に述べたようにボラティリティとは地震のようなものである。これは、一つの市場で地震が起きれば、他の市場に波及する可能性もあることを意味する。地震を封じ込めるために、金融市場で取られた対策は何だったか。
もう一つの流動性がポイントで、需給が歪んでいるとボラティリティは上昇する、したがって、需給を安定させる対策をとる、というよりは対応せざるを得なくなった。多額の取引による決済リスクが高まってしまったからだ。これが決済機関から預託金を要求された理由だ。
つまり、取引に関わった参加者が破綻するリスクが瞬間的に高まった。主戦場となったRobinhood(ロビンフッド)のプラットフォームでは約30億ドルの預託金が必要になったという。ロビンフッドにそのお金はなかった。したがって、ベンチャーキャピタルから10億ドルものお金を調達し、そして取引の制限にも至った。何もしていなければロビンフッドは破綻していたかもしれない。
いつでもどこでも市場がそこにあるという幻想は捨てよ
多くの人は取引所であったりプラットフォームに対して、「いつでもどこでも開かれた市場」を期待する。しかし、考えてみてもらいたい。取引所とは取引の参加者が集まって取引をする場所を提供しているに過ぎない。元来、売る人と買う人がそれぞれ値札と品物を持って集まっているに過ぎないのだ。何かの弾みにどちらかが現れない、ということはやはり起こる。
私自身も昔は銀行でトレーダーをやっていたが、扱う金額は数百億円とそれなりに大きかったので、当時気をつけていたことは“マーケットを壊さない”ことであった。
今でも取引をするときは「そこにちゃんとマーケットがあるか」を確認をする。このことは放牧に近いかもしれない。適度に草を食べ、そして次の場所に移る。どんなに美味しくても食べ尽くした後に草は生えてこない。結果的に自分が苦しむことになる。
投資の世界は厳しい。甘っちょろいことを言いたいわけではないが、少なくともマナー良く、分別のある投資家でいたいものである。金融市場の一人の参加者として。そんなことを思った出来事であった。