今回は、プライベートバンクでしばしば購入を勧められる、永久債(Perpetual Bonds)にテーマを絞って、その投資のリスク、そしてメリットを考えてみたいと思います。

さて、「永久債」という言葉を聞きなれない方のために、そもそもどんな債券なのか、その特徴をまとめてみます。

永久債とは、Perpetual Bondsのことであり、一言で言えば“満期のない債券”ですが、それほど単純ではありません。保有期間中は定期的に利息が支払われますが、元本が返済される日=満期日が存在しません。香港ではComplex Products(複雑な商品)に分類されます。

債券というのは保有期間中に利息が定期的に支払われ、満期に元本分がまとめて返ってくるものだ、というのが基本的な理解です。でも、そうでない債券も世の中には例外的に存在するということです。ただし、投資初心者の方にこういった債券を勧めることはありませんので、プライベートバンクを利用したことがある方、投資にこなれてきた方でなければ、満期のない債券にそもそも出会うこともないはずなので、その点の心配は無用です。逆に、ご自身のリスク許容度を無視して、永久債を買いたいと言うこともまた、あまりお勧めできることではありません。

永久債の投資リスク

投資を考えるときには常にリスクから考える癖をつけましょう。ということで永久債そのもののリスクを3つほど考えます。

出口戦略(流動性リスク)

満期がないとはすなわち、放っておいても償還はされない(元本が自動では返ってこない)という意味です。したがって、「満期保有」という投資手法が成立しません。債券に投資した資金を回収するには「売却」という方法を選ぶしかありません。では、永久債の市場価格は一般にどのように計算されるかというと、以下になります。

市場価格 = 額面 / 市場金利

すごく簡単にいうと、市場の金利が高いと安くなり、市場の金利が低いと高くなるという、もっとも基本的な動きをするということです。そう、現在価値という発想の根本であって、普通は市場価格がどんなに安くなっても満期まで待てば元本割れはしない、と考える人が債券を保有していますが、永久債の場合は市場価格の影響をもろに受ける、ということになり、株価に近い性質を持っています。購入時と売却時には手数料が取られることもありますし、もともと永久債はそこまで発行量が多くないので売却時の流動性リスク(思っていた価格よりも安く売る羽目になるリスク)は高めです。売買のことは頭に入れておきたいものです。

デフォルトリスク

債券で常に押さえておくべきデフォルトリスクは永久債の場合、もっとシビアに見ることをおすすめします。なぜなら、通常、どんなにデフォルトリスクが高まっても、実際にデフォルトしなければ額面の100が丸々返ってきますが、先ほど示した通り、手放す手段が売却しかないので、デフォルトリスクが高まって市場価格が下がるということは起こるからです。特に、銀行債ではなく、事業会社が永久債を発行する場合、事業が永遠に継続するのか、という問いかけにも繋がります。もちろん銀行も潰れることはありますが、社会インフラ化した企業とはいえ事業会社であればデフォルトリスクは最大のリスクとも言えましょう。企業は大きくなると場合によっては思っていた事業と異なる事業領域に進出することだってあります。

また、永久債の場合、そもそもデフォルトしたときの返済の優先度、すなわち弁済順位が低く設定されている傾向があります。たとえ格付けが投資適格級(BBB-以上)であっても、弁済順位の低さはデフォルトの確率を高める、ということに注意が必要です。

期限前償還リスク

投資家にとって資金の回収方法は売却以外にないと話しましたが、債券発行者側には投資家に資金を返すかどうかについていくつかのオプションが用意されているのが一般的です。

一番メジャーなのはコーラブルオプションです。

予め決められたタイミングで、債券発行者は額面100で債券を償還させて投資家に資金を返すかどうかを決められるというものです。このオプションが行使されると、投資家が損をする可能性があり、また気づかない間に債券が償還されていて、実は資金が運用されていない状態になっていた、ということが起こり得ます。このため、コール日の管理が必要です。したがって、満期日はないと言いましたが、コール日を満期日と想定して利回り計算をするのも一つの手にはなります。

一般には市場価格が100を上回っているかがポイントにはなります。市場で購入すれば110のものを債券発行者は100で買い戻せる、と考えればメリットがありそうですよね。難しいのはこれはオプションなので、たとえ行使した方が有利であっても、行使しないという選択肢が残されています。改めて債券を発行する手間を考えたり、あるいは改めて新規募集に踏み切ったときは前の保有者とは違う債権者となって、安く調達できない可能性があるからです。もちろんオプションが行使されなければその後も持ち続けられるので投資家は「嬉しい」となるかもしれませんが、市場の反応は実は逆です。有利な条件のオプションを行使しなかったのには、今すぐお金が返せない理由があるとか、借り換えをするのに何か懸念があるのではないか、といった背景があるのではと勘繰りますので、オプションの非行使はしばしばニュースでも取り上げられます。実際、今年に入って永久債の発行を拡大した中国でも、一方でコールの見送りが話題になっています。

また、債券発行者が金融機関である場合は特に、偶発転換社債(CoCo債)であるケースが多いので、どういう条件がついているかについても注意が必要です。債券だと思っていたものがいつの間にか株式になっている、なんてこともあり得ます。

永久債の投資メリット

リスクをざっと見てきたところで、次に、改めて投資のメリットについてまとめてみます。

比較的高い利回り

永久債はいわゆる株式と債券の中間の性質を持つ「ハイブリッド証券」と言われ、通常目にする利回り(1〜3%)よりも少し高い(4〜6%)のが特徴です。したがって、金利が低い環境下では勧められる機会が増える可能性があります。

ただし、利回りに限って言っても検討すべきポイントがあります。

金利は変動なのか固定なのか

市場価格の影響をもろにうけるのが永久債だと話しましたが、その影響を少し抑えて安定的に投資家に購入してもらうために、変動金利を採用する永久債もあります。例えば市場金利+4%といった水準ですね。価格のブレは抑えられたかもしれませんが、投資のリターンがブレるというのは良し悪しがあります。安心して受け取りたい人には固定金利の方が向いているかもしれません。ただ、市場金利が上昇してしまえば、もっと有利な投資手段があっても、固定のリターンしか得られなくはなってしまいます。

利息は四半期払いなのか、半期払いなのか、年払いなのか

あくまで受け取りのタイミングの問題なので、中長期で運用をされる場合には総額として差はほとんど出ません。ただし、資金を出し入れなさる場合などは気にしておくのは良いかと思います。債券の利息の頻度でメジャーなのは半期払いや年払いですので、四半期払いに固執すると、選択肢を狭めてしまうかもしれません。また、永久債の細かな条件の中には、利息支払いを延期する、というものもあります。企業経営が傾いたときには一般債券より不利になる可能性がることは知っておくべきでしょう。

保有期間利回り

債券に投資をする場合、額面の利息ではなく、満期保有利回りで見る方がより正確です。ただ、永久債には満期がありませんから、次に償還されうる日(コール日)までの保有期間利回りを見るのが一般的です。多くの場合は5年くらいに設定されていますが、途中で買った場合はよくみておく必要があります。コール日に近づくにつれて債券価格は100に近く傾向があり、ひょっとしたらそれを安いと勘違いする人もいるからです。

原資回収後はほぼ確実なリターンを生むのみ

投資においては「投資回収期間」を意識される方も多いと思いますが、例えば1億円の投資家をして、利回り10%で10年経過したとします。累積リターンは100%ですから、原資である1億円は既に回収済みです。その後利回り10%を生むとしたらあとは多少リスクがあっても心理的な負担は軽くなります。

不動産で当初レバレッジをかける(借り入れをして運用する)人はこういう発想が顕著ですが、不動産の場合は築年数が経つと建物が劣化するなどで利回りが落ちるリスクもありますが、社債の場合はこれがありませんし、管理の手間も増えたりはしません。永久債の「満期がない」という性質はこの観点から見ると実はプラスに捉えられるように思います。

まとめ

以上、永久債への投資リスクやメリットでした。金利が低下基調になれば、リターンを求めて債券需要が増し、金利が上昇基調になれば、債券は割り負けますから、債券需要が減退します。

個人投資家で債券投資について十分な知識を持つ人は多くありませんから、債券をポートフォリオに組み入れる方法についてはアドバイザーとよく相談の上、リスクとリターンのトレードオフを考えながら投資したいものです。私の場合は、最初から「永久債を買いませんか?」のようなセールストークは一切せず、お客様のリスク許容度とお付き合いの期間、そして金融市場の状態を踏まえながら、組み入れるべきであればお話しする、ということにしています。