米国にトランプ政権が再び誕生することになり、見通しの変化を感じているセクターの一つが債券である。世界で最も大きな債券市場を持つアメリカだからこそ、その影響に注目が集まっている。投資活動にどのように活かすか、少し話してみようと思う。
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定期預金から債券投資への境界線
いわゆる超保守的な投資家層にとって、高金利環境は恵みの雨となっている。彼らにとっては、そもそも投資商品に該当しない定期預金ですら4-5%の利回りを提供してくれるのだから、それ以上何を期待してリスクをとるのか、という話である。債券投資にしても、あるいは仕組預金のようなものですら、投資商品に該当するものは、リスクは小さいにせよ、全ての投資資金を失う可能性はある。そのため、銀行預金と債券投資を全く同質のもののように語り始め、両者の間にあった境界線をないもののように思い始めるのは危険だと言える。
そして、金利が少しずつ低くなり、その恵みの雨の量が減る頃、人々は同じだけの満足感が得られる利回りを求めてリスクを高めていく誘惑に駆られる。安全の境界線を必死に見極めようとするわけだが、そもそも債券投資に乗り出した時点でその境界線はとうの昔に越えている。そこでは全く違うリスク管理能力が求められていることは知る由もない。
逆イールドは当面終了か
将来的な利上げの可能性を指摘する声がありながらも、短期的な利下げの方向が反転することは現時点ではそこまで見通されていない。少なくとも長く続いた逆イールドの終焉が一旦訪れたことも確かではあろう。短期金利が通常よりも高い水準で維持されるとしても、それよりも長期金利が高ければ逆イールドではない。
急激な景気減速を金融市場が織り込み始めれば、長期金利が下がり、そして実際に景気減速が訪れて、短期金利が下がる。このとき債券保有者は大きなキャピタルゲインを実現する可能性がある。このとき仮に株式市場が崩れるならば、投資ポートフォリオとしては非常に上手くリスク分散を達成することになる。
依然として中長期は不透明
金利が低くなる前に、より長期の債券投資を行い、利回りをロックインできるのであれば、左うちわなのではないか、と考える人もいる。実際それもよく聞く営業トークの一つではある。全てが嘘だとは思わないが、絶対に罠でない、と言うこともできない。
利回りをロックインするとして、一体何年間をターゲットにすべきなのか、真剣に考えた方がいい。単にロックインすることだけを考えていたら、10年超のいわゆる超長期ゾーンのものを案内されることだってあるだろう。たった数年で世の中の金利がこれだけ動いたのであるからして、10年先のことを確定させることが何かリスクに対して脆弱な位置をもたらしはしないのかと問いかけねばならない。株式でやりがちな塩漬けを債券でやってしまう人もいるのだ。
利回りが確定すること、元本が保証されることは投資家の多くが欲しがる要素である。将来の確実性が得られるなら価値が高いからである。でも、誰かに確実を提供する相手は逆に不確実を受け入れるわけだから、それに対して相応のコストを払わねば釣り合わない。そのコストがいかほどになっているのか、計算したことのある人は少ない。
5%は十分ではない可能性
積極的な投資家も保守的な投資家も達成しておくべき最低限の利回りはインフレ率である。そうでなければ世の中の物価が上がったことにより、自らの資産は目減りしているのだから。つまり、目指すべき最低限の利回りすら時代によって異なる、ということを意識する必要があるわけだが、あまり多くの投資家は気にしていないように見える。その理由の一つはインフレ率が予想できるわけではないからでもある。
だから一昔前から考えれば、5%という利回りを比較的安全な投資で得られる今は素晴らしいと考えている人がいるのも頷ける。実際には相応のインフレ率が伴っており、決して良いリターンとは言い切れない。ただ、何もしなければ5%は失われたわけだから、それに比べれば自分を納得させることはできよう。
ハイイールド債を選ぶべきか
ハイイールド債というのは、米国債利回りのようないわゆるリスクフリーレートに、追加の信用スプレッドがのっているものである。理論的には、利回りがより高いことは、すなわち、信用の質が低い=倒産等で支払われない可能性が高い、という意味になるが、実際にはあまり取引されておらず、価格が適正でないなどの事情もあったりはする。
金利水準が時代とともに変わるのと同じで、信用スプレッドも時代とともに変わる。同じ企業だからといってずっと同じ信用スプレッドなのではない。リセッションなどで業績悪化が見込まれ、皆がハイイールド債への投資を忌避すれば金利が低かろうと債券価格は下落し、信用スプレッドは拡大する。
だから、信用スプレッドがタイトである=人々がリスクを取りたがり債券の人気が高いときにハイイールド債を購入することは相対的な妙味が少ないことは確かである。現実には、市場が安定しているときにハイイールドを求め、市場が不安定になると手放す人が多い。この点は人々がコントロールすべき心理であって、株式投資と何ら変わりはない。
違うマーケットを見てみよ
様々な理由により商品としての債券に恋をしてずっと眺め続ける人がいる。ある時代においてそれが勝ちパターン、あるいは負けない戦略として宣伝されることなどが影響していると思うが、時代が変わっていることに気づかない例もある。実際に投資するかしないかはさておき、常に違うマーケットを見ることによってその変化を客観的に見ることができる。
目の前の投資機会が魅力的だったとしても、隣によりリスクが低く、よりリターンの高いものがあればそちらを選ぶのが賢い投資家である。マーケット毎の得意不得意はあるかもしれないが、それを投資活動に持ち込みすぎないことは大事である。