今回は、海外在住者・海外駐在員が日本帰国を考えた際に検討する、住宅購入という大きな意思決定について、予め備えられることは何か、考えてみたいと思います。

ある日の同僚との会話

宮脇:ねぇねぇ、最近よくモーゲージ(イギリスの住宅ローン)の書類を見かけるんだけど、イギリス人ってそんなに今不動産買いたがってるの?

サイモン:ん?そうね。イギリス人は「自分の家を買って持つ」っていうのが当たり前だからね。別に今だからってわけではないよ。日本人は違うのかい?

宮脇:確かにさ、イギリスだと「プロパティラダー」って考え方があって、玉突きみたいに住み替えていくから、若い人でも家を買う人は多いって、ロンドンにいたときは聞いたよ。でも、それってインフレーションがあるからできることじゃない?

サイモン:あー、インフレーションもあるけど、イギリスの場合は、年季が入るほど家の価値は上がるからね。日本は買ってから、家の価値はどんどん下がっていくって聞いたぜ。何でなんだい?めっちゃ残念だな。

帰国後に向けてプランニングをすることの重要性

海外駐在員にとって帰国後のことは全く読めないことが多いです。どこの拠点で、どういう仕事をして、どこに住宅を構えて、しかもどのタイミングで帰国するのかまでも。これらのことは残念ながらご自身でコントロールできる部分を越えていますから、考えるのを諦めている人がいるのも肯けます。

しかし、帰国後に向けてプランニングをすることは本当にできないのでしょうか。つまり、ご自身でコントロールし得る部分があったとしてもコントロールしない人がいる、これはもったいないようにも感じます。

もちろん、海外生活を充実させることは大事ですが、来るべき「帰国」というイベント(あるいはさらなる海外転勤)がご自身と家族にとってどのようなインパクトを持つのか、考えてみてはいかがでしょうか。今回は「住宅」という観点から話をしてみます。

帰国後の住宅購入を考える海外在住者は意外に多い

帰国が間近に迫ってくると、勤務地などが徐々に明らかになり、帰国が現実味を帯び始めます。このときになって考えることはもちろん身支度ですが、同時にお金の心配と住宅の心配が顕在化します。

海外にいる間に、全て自費で住宅費を払っている人は稀だと思います。特に香港だと賃料も高いですから、「自費だったらこんなとこ住めないよね」と思えるところに住んでいる方々も多いでしょう。したがって、家族がいようといまいと住宅の心配はしなくてよかったわけです。

日本に帰国した後に直面するであろう変化は以下が一例です。

  • 物価換算ベースの給与がなくなり、実質的に減給となる
  • 世帯になっているので、社宅は割り当てられず自分で賃貸を探さなければならない
  • 社宅であっても、自己負担が増加するし、住む場所は選べない
  • 自費だと思うと海外で住んでいたような広さの家には住めない

これらの変化は、賃貸だったらどのくらいの水準のところに住むか、あるいはいっそのこと住宅を購入するか、という悩みになります。しかしながら、海外にいるので日本で物件を探して回ることもできませんから、「なるようになる」と思って帰っていく人も少なくはないでしょう。

ただ、海外駐在の開始が一つの大きな人生イベントであったのと同じように、日本帰国もまた大きなイベントであり、これをきっかけに人生や家族について思い切った決断をする人が多いのも事実です。海外駐在時は「結婚」であったり、日本帰国時は「住宅購入」であったりするわけですね。

帰国前の段階から住宅購入の検討はできるか

最も素直にこの疑問を抱き、そして答えるとしたら、答えは「できる」になります。

ただ、当然ながら日本にいるときよりも手続きも特殊で、煩雑になる可能性があります。条件が悪いかというとそういうわけではないでしょう。帰国時の身支度の中でやり切るためには、しっかり時間をとって前もって検討しておくことが大事かと思います。

最近はオンラインで内覧ができるようになりましたし、しっかりとした職につかれていれば、別に海外だからといって住宅ローンの審査が通りにくいわけでもありません。ただし、海外に住んでいる間に購入された場合、日本の非居住者扱いとなり、税控除の対象から外れることもありますので、その検討は必要になります。

海外在住による住宅購入のアドバンテージはあるか

海外にいる間に海外で住宅を購入される方もたまにいらっしゃいますが、ここでは日本帰国後の話に限定します。

日本でいるときに比べ、海外在住者が住宅購入をするのにディスアドバンテージ(不利)を感じる人が多いかもしれませんが、そうはいってもご自身と家族の人生ですから、希望通りの選択をできることが望ましいでしょう。そのために、逆にアドバンテージ(有利)があるのかどうか、考えてみました。

① 資産形成をするタイミング

自己住宅はお金の出ていく「負債」だとよくいいます。実際、頭金でも多くのお金が必要ですし、住宅ローンを組むのであれば、まさしく負債として重く金利負担がのしかかってきます。

もちろん、これを「夢のマイホーム実現」との天秤にかけるわけですが、負債がないに越したことはありません。ただ、超低金利のローンをわざわざ避けるのももったいない気がしますから、その場合は、

資産と負債のマッチング

を考えてみる、というのは一つの手です。

簡単な説明としては、借りたお金を返せるだけの資産を持っておくこと、金利負担をカバーできるだけの、利回りを資産で確保することです。もちろん、住宅自体も価値のある資産ではありますが、流動性が低いこと、さらにはそもそも住む家を手放すというのを想定することは少ないからですね。

幸い海外在住のタイミングでは多少所得に余裕が出てきますから、早い段階から資産形成に回すことができれば、数年後の帰国時にはそれなりの資産となって、住宅購入を助けてくれるでしょう。

② 資産形成をする環境

①で資産と負債のマッチングをあげましたが、海外在住の場合、資産を外貨で持つことができる、というのは有利に働く可能性があります。(もちろん為替リスクはあります。)

というのは外貨建てでの資産運用の手段が豊富にあり、日本円に比べれば高い利回りで運用できる可能性があるからですね。

もちろん、「少ない資金で、数年と短い海外駐在期間で、住宅をキャッシュで買えるようになるほど高い利回りで運用できます!」という夢のような話ではなくて、帰国後にしっかりとローン返済の負担を減らせる(元本だったり、月々の返済だったり)ような、いわば“資産の種”を植えるくらいのことです。

負債より大きく、そして早く膨らむ資産を持とう

今回のケーススタディを通じて伝えたかったことは、「住宅購入」という一つの目標に対して、「負債」や「資産」がどのように意思決定に影響を与え得るか、そしてそのプランニングをすることの重要性でした。実際にはもっと細かく数字を出したり視覚化したりしていくことにはなります。