オフショア投資に出会った人の中には、複数の契約を保有する人も少なくない。それぞれが出口に向かう過程でどのようなことを考えればいいのだろうか。

事例概要

相談者(Tさん)の概要

  • 年齢:50代前半
  • 職業:メーカー管理職
  • 資産総額:2億円

内訳

  • 海外積立投資① 3,000万円
  • 海外積立投資② 2,500万円
  • 海外積立投資③ 500万円
  • 投資信託 5,000万円
  • 不動産 6,000万円
  • 現金 3,000万円

Tさんは過去に友人とともに香港を訪れ、香港において銀行口座を開設するとともに、海外積立投資を始めた。1本あたり月々10万円程度で、その後も契約を増やし、現在3社に分けて契約が存在する。

もうすぐ支払期間が終わるものもあれば、数年前に始め老後に向けて積み立てているものもある。それ以外には投資信託や不動産などで基本的には手間のかからないかあるいは分散した投資をこれまで意識してきた。

ご自身の定年も近づくなか、香港の先行きについても気になったこともあり、資産全体における海外投資の位置付けについてどのような方針で望むべきか、意見を求められたもの。

海外積立投資の現状

まず1契約目であるが、フレンズプロビデントの積立商品。こちらは契約から15年が経過しようとしており、あと5年で積立期間が終了する。

プロバイダーとしてのフレンズプロビデントは現在も香港に拠点があるが、新規の顧客受け入れをしておらず、既存顧客の継続フォローにのみ注力している。

特に日本人向けのビジネスは過去に熱心であったが、現在は行われていないとされる。一時期はAvivaに買収されていたが、2020年には再編があり、現在はIFGL(International Financial Group Limited)の傘下にある。

2契約目であるが、チューリヒの積立商品。こちらは契約から10年が経過しようとしており、もう10年積立期間がある。

プロバイダーとしてのチューリヒは現在も香港に拠点があり、様々な保険商品を引き続き提供しているが、積立商品のような投資型のものは決して多くない。どちらかといえば損害保険や生命保険を通じた保障の提供を得意分野としており、より香港で地に足のついたビジネス展開を狙っている印象である。

3契約目であるが、ロイヤルロンドンの積立商品。こちらは契約からまだ2年程度で、もう13年の積立期間がある。

プロバイダーとしてのロイヤルロンドン、正確にはRL360は香港に拠点があるが、香港居住者向けにはサービスを提供していない。あくまで香港外の顧客サポートのための拠点であり、日本居住者の受け入れも一部にはあるとされる。RL360はフレンズプロビデント同様、IFGLの傘下にある。

満期まで積立を満了すべきか否か

香港の先行きが気になるなか、まだ積立期間がいずれも残っていることについて考えることがあったご様子。3契約はいずれも香港の商品と思われがちではあるが、それぞれの商品の提供元はイギリス領マン島にあり、あくまで香港はアジアでのサービス拠点に過ぎない。

このことはどの商品においてもパンフレットを見れば”regulated by 〜”という形で管轄地域の金融庁が記載されることになっている。

もちろん香港に万が一があればサービス拠点やあるいは仲介に入ったIFAの動向は気にはなるかもしれないが、最終的にはイギリス領マン島の本社が対応することが想定される。

一方、香港の現在の状況は金融セクターに限って言えば健全性を保っており、大きな危惧に発展するようなことは見込まれていない。もちろんこのあたりは現地企業の方がシビアにビジネス環境を見極めているので、スタッフの削減などの形でシグナルが出てくる可能性はあるが、現状はそこまでのものはないと言えそうだ。

満期といっても保険料の支払が終わったからといって保険契約が自動的に解約される、というわけではないので別にその後に運用を継続していても構わない。

ただ、積立契約の手数料は相対的には高い傾向があるので、解約手数料を払ってまでではないが、時期がくればより安いプラットフォームに改めてまとめて一括投資として切り替えて引き出しに備える、ということは将来的には考えられよう。

乗り換える際には居住地によっては税金の考慮が必要になってくるため、事前に相談をしておいた方がよい。

過去のIFAとのやりとりを振り返る

運用こそそれなりに続いているようではあるが、仲介に入ったIFAからはそれ以上のサービスはこれといって受けておらず、改まって相談するにも時間が経っていたので、セカンドオピニオン、というかファーストオピニオンに近いが、話しやすそうだったので私に聞いてみようかと思ったとのことであった。

初期投資期間後は積立を止めてもいいか

過去に相談のあった事例では、18ヶ月ないし2年ほどの初期投資期間を終えた頃、積立をやめて、別の商品を追加で始めて積み立てることを勧められたことがある、という人は少なくない。

もちろん少し時間が経てばより良い商品が出る、つまり乗り換えた方がよい可能性もゼロではないが、十中八九が営業員による新たな仲介販売手数料(コミッション)目的であると推測できる。

海外積立における初期投資期間というのはまずは積立契約に必要な諸々の経費の部分に該当するため、基本的には放っておけば使い果たす仕組みになっている。経費を払い終わったら積立終了しましょうというのはつまるところ資産形成のアドバイスでも何でもない。そういう営業員ほど一稼ぎした後はいつの間にか業界からいなくなっているのが特徴である。

受益者の指定を案内されたか

海外積立投資は多くは保険会社による提供商品であるので、受益者を指定できる。ただ、指定しなくても契約はできる。

海外の資産の場合、仮に受益者を指定せずに加入者が亡くなった場合、死亡保険金として受け取るまでに非常に時間がかかることになるので、受益者を指定するのが大切だ。

しかし、業者からみれば時間がかかってくれた方がその間の手数料が取れるので、受益者の指定ができることを案内しないという例も過去にはあった。受益者の指定は無料であり、何度でも変更ができる。万が一のことがある前に確認したいところである。

現金の割合が多すぎないか

次は投資一任した先でのポートフォリオの中身であるが、よく聞かれるのが現金の割合が増えてきているというものだ。一部にはスイッチングのために現金へ一時的に退避することはあるが、そのもの積立投資であるという性質からして、現金が多く含まれることは不自然ではあると考えられる。

なぜなら、顧客は余剰資金を積立商品を通じて投資に回しているのであって、現金は現金でそれなりに別途あるからである。

もしそろそろ株価が下がりそうだという理由で株式を売却して現金化した、というのであればそもそも顧客がドルコスト平均法を用いて積み立てていることに反するし、さらには積立投資の中で短期的なトレーディングを行っているという風にもとれなくはない。もちろん全てが上手くいけば大きな利益を出して賞賛され得るかもしれないが、逆に大きな損失を招くことだってある。

スイッチングで手数料負けしていないか

海外積立投資の場合、ファンドのスイッチングにそれなりに費用がかかる。

正確にはスイッチングにかかる手数料はなくても、ファンドには買入価格と売却価格で差があるため、例えば今日買って明日同じものを売ったとしてもその価格差は必ず損をすることになる。

したがって、スイッチングが多すぎるとどんなに見た目の運用成績は良くても手数料で負けてしまうことはある。この意味でも積立投資の中で短期的なトレーディングをするべきではない。

短期で爆発的に利益をあげるようなリスクの高いファンドは、一般投資家向けの海外積立投資で選べるものには含まれていないし、仮にあったとして顧客のためにそれを選ぶべき局面は極めて限定的であると想像される。

モデルポートフォリオの運用成績を見る意味

IFAの中にはモデルポートフォリオなるものを公表して運用成績を競っているように見せるケースがある。

確かに、多くの顧客がまとめて処理する上でモデルポートフォリオは効率的ではあるが、逆に言えば型にはまった運用しかできない。リスクプロファイルが“積極的”ならばみんな同じポートフォリオ、ということだ。

ただ、ここで“みんな同じ”といったが、実は完全に同じにはなり得ない。なぜかというと、積立を行う日が人によって異なり、そして積立をはじめてからの期間も人によって異なるからである。

モデルポートフォリオは個々の人と商品の独特の状況には配慮していないことが多く、同じ運用指図をしたはずなのに、違う運用結果になる、という現象が起こり得る。

海外積立投資は増え具合が分かりづらい

海外積立投資は証券口座ではないので、実はいつどのように資産が増減したのかが分かりづらいことが少なくない。

定期的に発行するレポートではその時点での資産状況を表すことはあっても、具体的に何をどうした結果そうなったのかまで紐解くのは容易ではない。このことは海外積立投資にいくらくらいの費用がかかっているのかが運用結果からは分かりづらいということも示している。10年も積み立てたのに全く増えていないというケースにも原因究明が難しいのだ。

ただ、時間が経ってこのことを放置していると、結果的に全く増えていないということにもなりかねないので気づいたときに一度チェックしておくのが吉である。

投資哲学はどのようなものか

過去のパフォーマンスについて見る人は多い一方で、これから先どのような見通しになり、それがなぜなのかを聞く人は少ない。投資一任する以上はどのような投資哲学を持って運用されるのか、期待リターンやリスクがどのくらいあるのかは聞いてみるとよい。

単に結果としてのパフォーマンスだけでなく、ご自身にとって納得のいく運用方針をもっているところに投資一任するのが、結果的に期待から外れないための方法ではある。

IFAとのコミュニケーション

投資一任にしてしまうと、担当者とのコミュニケーションが疎かになる人もいるが、運用の話に限らず、定期的に連絡をとることは重要である。

ひょっとしたら担当者が辞めたのに連絡がきていないという場合もあるし、あとはせっかく運用をしている以上、商品の説明以外にもIFAの仕事などに興味を持って、担当者とのやりとりを楽しむということもできるだろう。個別の投資について軽く意見を聞くのでもよいだろう。

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