TINAというのは、

There is No Alternative(他に選択肢はない)の略で、

「最高のシナリオに賭けるしかない感覚」

である。楽観的なシナリオだという自覚がどれほどあっても、それ以外のシナリオを選択したときにメリットがないために、消去法的に楽観的なシナリオにすがる、というものだ。

世界の株式市場は記録的な株高を更新し続けるが、果たして宴に終焉は来るのか、多くの運用会社は「この状況に慣れろ」と言ってくる。それでいいのか。

今回は『TINA』が支配する投資環境の終わりが来るのかどうか考えてみたい。

現在の市場環境を見渡す

2020年の株高は投資家に強烈な印象を与えたが、2021年の上半期もまた決して悪くない株式市場だったと言えよう。景気回復に向けて動くなかでは、高いバリュエーション(株式評価額)を踏まえると、下落リスクがあると警告する声をかき消すかのように、企業利益の急回復や中央銀行による支援策が効いている、ように見える。

悪いニュースがないのに株式のネガティブなシナリオをイメージすることは困難だろう。しかし、企業業績とは別に、現在の市場環境が株高を演出していることは忘れてはならない。どういうことか。

株式以外の資産に魅力的な投資機会がない、と認識されていることだ。本来は投資資金というのは様々な資産に分散して投資される。しかし、最も資金の向かいやすい先進国の国債利回りは低水準、いやマイナス水準にいたるものだってある。次に想定できる企業の社債であっても信用スプレッドはここ10年でほぼ最低水準、とても信用リスクを健全に現しているとは考えにくい。これらにも十分既に投資資金が流れているのだ。

その上で、現金として残さざるを得ない投資資金もあれば、やむなく他の資産に流れざるを得ないものもある。投資制約上、一定の株式投資割合を維持せねばならぬケースもあるだろう。

利益を上げられる余地があり、十分な市場規模を持つ資産、それが株式、となっているのだ。

債券をポートフォリオに入れるべきか

債券の話をしたが、何も債券から投資資金が抜けているわけではない。つまり、『TINA』は必ずしも『TINA』でない。先に述べたとおり、債券にお金は流れている、がしかし十分なリターンを期待できない、という観測も存在するのだ。それはそうだ、見た目の利回りは低い。

個人投資家の場合、利回りのない債券でどのようにリターンを稼ぐのか、と疑問に思う人もいるだろう。しかし、債券のリターンは単純な表面利回りでは決まらない。マイナス金利の債券を取引することでもプラスのリターンを捻出することはできる。それに、債券をポートフォリオに組み込む最も大きな理由は、ポートフォリオの全体最適化であり、それはリスクの低減にある。『TINA』だからこそ、考えねばならないのは債券へのエクスポージャーであり、ポートフォリオのバランスをとってくれ、適切な投資対象となる債券を見つけることなのだ、と心得るべきである。

前例のないスピードで株式市場が上昇

現在の株式市場が高いか低いか、の議論の前に、現在の株式市場としてはこうなのである、という事実を受け入れておく必要はある。どんな理由があれ、取引が成立するには売りと買いがなければならない。誰も取引をしていない間に価格が上がっているならともかく、取引が存在するなかで価格が上がっているのである。だから、今の株式市場が正しいだの間違っているだのということは議論しても仕方ない。

それに株式の全てが上がっているわけでもない。最も顕著なのは大型のグロース株であり、本来であれば大企業となった時点で成長率としては鈍化することが多いが、未だにその気配がないものもある。一方で、景気回復が見えるなかでもコロナショック前の水準に追いついていない企業だってある。

「前例のないスピードで株式市場が上昇」という、一般投資家へのインデックス投資の啓蒙が進む中で生まれた、この認識すら実は怪しい。

『TINA』が支配する投資環境の終わりは来るか

終わりは来るかもしれないし、来ないかもしれない。あるいは来るには来るけれど今年かもしれないし、5年後かもしれない。一つには、『TINA』とは皆と同じ舟に乗ることを選ぶ行為でもある。ひょっとしたら、赤信号みんなで渡れば怖くない、という状態なのかもしれない。

過去にアベノミクスやトランプ相場といった言葉が流行ったように、逆に言えば一般投資家の参加する株式市場の下落(急落)は、実体経済への影響は決してプラスではないため、政治的な意図も働きやすいとは考えられる。

しかし、過去を振り返るならば、リスクを取りすぎたポジションはあとで大きな損失に見舞われ、結局は束の間の宴を楽しんだだけで、変わらなかったということもある。リスクの取りすぎは避けられるのであれば避けたい。

『TINA』を利用して投資のリターンを拡大させることはできよう。一方で、相場の転換点がいつか来るとも同時に信じて、下船の機会を今かいまかと伺い続け、そして他者よりも先に下船することだけを考え始め、それがストレスになる人もいよう。

自分自身にとって心地よい投資のポジションを見つけておきたいものだ。