日本企業も多く進出するタイではあるが、現地でどの程度金融サービスを利用すべきなのか。タイ在住者・駐在員が行うべき資産運用とは何か解説してみたい。
目次
タイにいると利用できない金融サービス
日本からタイに駐在、移住した人が直面する問題は、日本での金融サービスの継続利用の可否である。
残念ながら、
- 日本での証券口座開設や維持が困難
- 日本での新規での生命保険加入が困難
であるというのは周知の事実である。継続しているものも、実家の住所などを使っていることが多く、海外住まいであることを金融機関側に通知する人はあまり多くない。
一方で、海外生活が長い場合、その場しのぎ的な対応を続けていると、自らのライフプラン自体に綻びが出てきてしまいかねない。しっかりとした金融サービスを受けるにはどうしたらいいのか、生活が落ち着いたならば一度は考えてみたい。
タイにいながら利用できる金融サービス
銀行サービス
日本でも非居住者口座としての維持を認める銀行とそうでない銀行があるため、実家の住所などで口座維持をしている人もいるだろう。タイに住所が維持できる場合を除いては同じ状況で、帰国時には預金口座を解約しなければならないかもしれない。したがって、銀行経由の投資商品も継続性に課題が残るため、永住する予定のない方は要検討である。
タイにお住まいであっても、香港に銀行口座を開設しにくる方はいる。香港の銀行口座の場合は居住地によって口座の維持が困難になるということはないとされるからだ。もちろん、何かトラブルになったとしてわざわざ香港にまた来なければならないという可能性はゼロではないが。
なお、タイも2023年9月末までにはCRS(共通報告基準)の初回情報交換に参加することをコミットしているため、今後は日本や香港とも税務情報の交換を行なうことになる。
証券サービス
タイにも証券取引所があり、国内の株式や投資信託に投資をすることは可能である。タイにいなければ考えることは少ない選択肢と言えよう。
比較的少ない金額から積立をする場合には、あえて海外のサービスを利用するよりは、恐らく最も手頃な手段になってくる。
ただ、タイの株式の投資判断ができるほど詳しいという人はそれほど多くないだろうし、またタイという金融市場そのものが世界的に見て大きいかというとそういうわけでもない。
また、SSF(積立式投資信託、Super Saving Fund)やRMF(退職投資信託、Retirement Mutual Fund)といった税控除対象の運用もできるが、それぞれ、最低保有期間が設定されており、いざというときには解約できない可能性が残る。
運用の中身自体はこれらの制度に縛られずともできるものが多いので、節税メリットだけで選んでしまうと、後悔することにもなりかねない。適性があればもちろん存分に利用すれば良い。
また、タイ国内のサービスでも日本や米国に投資できるものはあるが、投資商品のラインナップという意味での充実度合いは香港に比べると低くなりがちではある。一定以上の資産を持つならばなおそのことは実感するだろう。
もちろん、先述の税効果などを踏まえてどちらに分があるかは人によると思うが、長期的な継続性の観点などからも国内/国外どちらのサービスを利用するかは一考に値するものではあろう。
保険サービス
家族を守るための生命保険は有効だろうか、居住地が変わったときは常に検討したい。
税控除対象のものもタイ国内で加入できるが、ローカルサービスであれば、海外で亡くなったとき、あるいは解約するときに家族の誰もタイにいないとなれば手続きが困難になる可能性があり、現地でのサポートが得られるかどうかがカギになる。
生命保険会社にとって居住地(特に新興国)によっては保険料の加算があったり、あるいは保険契約の引き受けを断られることがある。香港の保険サービスからみてタイ居住者がどのように映るかという点でいうと、保険会社や保険商品の種類による、と言える。
また、タイの中でも、どの都市や地域にお住まいかによっても対応が変わってくる可能性があるので、実際どうなのかは個々の状況を踏まえて事前審査にかけてみるしかないと言えよう。
しかし、様々なリスクも踏まえた上で、タイ国内の保険サービスと比べてメリットを感じられる可能性は十分にある。香港の保険が比較的安定的な投資対象として映ることもあるようだ。
主要外貨で資産形成
ローカルの金融サービス自体は当然ながら一部には利用した方がいいものがある。しかし、タイでの滞在期間がそれほど長くなかったり、他の国に異動または移住する予定があったりする場合には、そのことを考慮し、適切な金融サービスの利用を検討すべきであると言える。
とりわけ、現地通貨であるタイバーツはアジアの中ではまだ取り扱いが多い方ではあるものの、新興国通貨の一つではあり、世界中どこでも流通しているものではない。
資産のポータビリティ(移動可能性)という意味では、米ドルを中心に、主要外貨でコアの資産形成を行うことが好ましいだろう。その上で、ローカルサービスもサテライト(サブ)として享受すればよい。
タイの場合、2024年からは国外源泉所得に対しても、税務対応が必要となるようになるため、国内と国外の資産管理のあり方についてはこれまで以上にしっかりと検討をすべきであると言える。タイに永住するのでなければ、金融サービスにおいて香港を利用するメリットは高まったとも考えられよう。