香港には魅力的な保険商品があり、投資目的で購入する人もいますが、そもそも保険と投資では考え方が異なっている面もあります。ただ、保険の好き嫌いという先入観を持たない債券投資家は、遠慮なく香港保険を通じてリターンを確保しているようです。

保証利回り保険商品に注文が殺到

とある香港の保険会社が2020年11月、保証利回り2.3%強、満期5年の商品を発表しました。しかし、その数週間後には商品が消えてなくなっていました。これまでの経験だと、そこまで高くない利回りなのですが、なぜこのようなことになったのか聞いてみたところ、どうやら巨額の資金ニーズがあったそうなのです。

元本保証、利回り保証だからなのかなと最初は思っていましたが、それだけではなさそうです。他の金融商品と比べて優位性が増したのです。つまり、ある種の裁定(アービトラージ)が働いています。

ちょっとした例を考えてみます。

  • ① 年率2.3%強、満期5年の定期預金
  • ② 年率2.3%強、満期5年の生命保険
  • ③ 年率2.3%強、満期5年の現物社債

以上の3つは同じようなリターンを提供しますが、どのように感じますか。

①は残念ながら今の経済環境では提供をする銀行は皆無でしょう。もし提供すれば銀行としては逆ザヤです。③は探せばあるにはありますが、米国5年債利回り+2%ですから、それなりの信用リスク(倒産リスク)を負う計算になります。そして②があったとしたら、保険会社ですから、格付けは一般企業よりは良いと想定されますね。

債券市場の状況を知る

2019年までは日本や欧州はマイナス金利が長引くなか、アメリカだけは好景気を背景に緩やかな利上げをしてきました。しかし、新型コロナウィルス流行により世界的なリセッションに突入し、アメリカもゼロ金利政策へと逆戻りしました。

リセッションなので本来であれば倒産企業が増え、社債の信用スプレッドは拡大するはずでしたが、米連邦準備銀行(FRB)が社債のETF購入を進めた結果、悲惨な結果になっていないどころか、起債環境としては絶好のタイミングとなりました。

2020年3月の債券市場暴落の中で、良質な債券を購入できた投資家は最後の勝ち組だったのかもしれません。

一方で、期を逃した債券投資家は追い求めるリターンが得られず、幾ばくかは株式市場に流れ、リセッションの中での空前の株高が演出されています。

ライフプランへの落とし込み

ごくごく一般的なライフプランにおいては現役時代(65歳まで)は株式を多めにリスクをとるポートフォリオ、退職後(65歳以降)は債券などでリスクを抑えた安定運用を心がけることとされています。これはもちろん間違いではありません。

ただ、絶対的なリターンというのは

 資金量×利回り

に他なりません。なぜ、退職後は安定運用でいいかというと、現役世代に比べて資金量が増えているからです。資金量が増える代わりに利回りを抑えることができるのです。

しかし、現実としては、この利回りというのが究極的に下がってしまいました。どんなに資金量があっても、ゼロを掛ければ結果はゼロですから、退職後は貯蓄を食い潰す生活になってしまって、先行きに不安を感じることに繋がります。まして、働くという選択肢(労働力としての価値)が徐々に失われる中で、その不安は絶対に避けたいものでしょう。

私たちファイナンシャルアドバイザーにとって大切なことは、もちろん正しく顧客を導き、お金を増やすことかもしれませんが、それ以上に、老後の安心をいかに届けるかにも重点が置かれます。

債券投資の代わりとしての香港保険

私の場合、資産運用のバックグラウンドが強いので、どうしても興味がそちらに寄ってしまいますが、節税目的を除いたとしても、香港保険は使い勝手の良いものだと最近は実感しています。

色々な金融市場を俯瞰してみると面白いアービトラージ(裁定)の機会にも巡り合うときがありますしね。

債券投資っぽく見える香港保険の一例を紹介してみます。

元本(想定):USD500,000(約5,000万円)

利息(保証):2.3%(年率、120歳まで)

元本回収時期(想定):11年目以降

・・・

20年目利息(保証+非保証):3.2%(年率)

20年目解約返戻金(保証+非保証)USD750,000(約7,500万円)

・・・その後も利息、解約返戻金とも徐々に増加

最初の10年間は年率2.3%の固定利付債券とみなしましょう。利回りは高くはありませんが、米国債が1%未満ですから、決して悪い水準ではありません。月々の受け取り金額に直すとUSD1,000(約10万円)です。もちろん受け取らずに再投資すればまさに複利を享受できます。その後、利息部分に関しては非保証の金額が乗り、20年目には3.2%まで上昇します。

元本部分に関しては、11年目には回収ができる計算になりますが、満期の定めがあるわけではないので、この時点で継続するかどうかを選べるわけです。その後も、利息が増えるのと同時に、解約返戻金も増加していきます。

一見すると生活費を工面するには利息がちょっと少ないように見えますが、歳を取るにつれて利息が増えるという点は捨て置くべきではありません。これは自身の労働市場での価値と反比例してくれるので有難いこと、そしてインフレーションにも対応していることです。

解約返戻金が徐々に増加することも、老後に貯蓄を食い潰していないという感覚を持つのにも役に立ちます。利息分以上に支出が発生するようなら、一部を引き出すことも選択肢に入れることができます。

以上、ちょっとした発想の転換の例でした。保険と投資商品は本来比べるべきものではありませんが、どのようにライフプランに影響を与えるかにおいて、利回りの考え方は無視できません。あるときは保険が勝って見え、そしてあるときは預金や債券が勝って見える。基本の考え方を理解した上で、現在の環境についてアドバイザーと話をしてみてはいかがでしょうか。

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