誰でも自分で資産運用ができる時代になったからこそ、どうやったらいいのかに悩む人は多い。IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)に見られる、投資一任(Discretionary Investment Management)というスキームが受け入れられやすい理由について解説してみる。

資産運用のアドバイスへのニーズが増加

世界の金融市場はときおり大きな混乱に見舞われる。予め分かっているようで、実際に起こると受け止めきれない投資家が多い。ひと昔前に比べると資産運用が身近になった分、投資に対して前向きな人は増えたが、一方で、資産運用が上手くいったと感じる人はそれほどでもない。ここに専門的なサポートへのニーズの高まりが見て取れる。

人間はポジティブな感情よりもネガティブな感情に突き動かされることが多いかもしれない。資産運用で儲けてやろうというよりは、経済状態が悪くなって別の収入が欲しくなったり、円安やインフレが進んで資産の目減りを肌で感じるようになったりしたとき、ある種の社会現象に変わっていく。

一方、オンライン証券の広がりや株式、投資信託の手数料の切り下げにより、従来型の取引手数料で稼ぐ資産運用・証券のビジネスでは利益が確保できず、資産運用アドバイスという領域にシフトしてきているともされる。

投資助言か投資一任か

確かに投資家は投資に対する助言が欲しいと思っている。何に投資をしたらいいか皆目検討もつかないし、下手に手を出して失敗したくもない。だから、「何に投資をしたらいいですか」→「○○がいいんじゃないでしょうか」という会話が成立する。

しかし、そもそも投資の売買執行を顧客に任せるのは、確かに「投資は自己責任」という考え方からすると合ってはいるものの、それに対する投資助言の対価を外側で提供する、と言う場合のサービスとしての訴求力はやや弱い。場合によっては顧客の負荷を増やしているだけかもしれないからだ。

IFAとは投資の助言をする仕事だというのは正しいが、個別具体的な投資商品に対するアドバイスをする、というのではそもそも従来型の証券やあるいは保険のビジネスと何一つ変わらない。売る側(セールス)と買う側(顧客)に分かれてしまっているので、顧客に寄り添うというのは仕組みではなく気持ちの問題だということになる。

投資一任においても、資産運用のアドバイスは行われる。ただし、それは何に投資をしたらよいかというよりは、どのように投資をしたらよいか、投資をどのように続けていったらよいか、といったちょっとした視点の違いがある。

抱き合わせて価値を提供しない

かつては比較的分厚い手数料のなかで、まるっと価値を提供していた節が金融業にはある。金融市場に対するリサーチも、あるいは金融商品選びのアドバイスも、アフターフォローも、全て販売収益でもってコスト回収をしてしまっていたわけだ。

金融業における手数料の切り下げは、付加価値の切り分けにも繋がっている。

資産運用のプラットフォームを提供する金融業者と、投資一任スキームを提供する金融業者は分かれ、コンビネーションによってサービスが成り立っている。これにより顧客側から見て何にどのような費用がかかっているか、透明性も確保されやすくなっている。

投資一任にはアドバイザーの一定の質が必要

アドバイスをすると言いながら、実際は全ての投資の意思決定をアドバイザーが行っているのが投資一任の特徴である。権限を渡してしまっている以上、顧客の意向にそぐわないことをされるリスクもはらむ。

運用ポートフォリオの中身を、業者からのキックバックの大きい投資商品で固めてしまったり、リスクの高い商品ばかりで構成されてしまったりである。気づいたら全然資産が増えていない、あるいは訳もわからず減っていると言うことに繋がりかねない。

誰にでも投資一任すればよいというものでないことはここからも分かるとおりであり、アドバイザーのライセンスや経験はもちろん、顧客としての自分自身への理解度が高いことが何より重要になってこよう。

投資一任における誤解の一つは、金融市場をよく知るからアドバイザーが資産を自由に組み替えるのだと思っていることである。もちろんプロの目線というのはあるが、金融市場に向き合うなかで、何もアドバイザーが世界の誰よりも優れた資産運用スキルを持ち合わせているわけではない。

より正確には、顧客をよく知るから、アドバイザーが顧客の代わりに資産を自由に組み替えるのだ、というところになってくる。阿吽の呼吸により、「それは私がやりたかったことだ」と思えるのが成功イメージである。

つまり、顧客側もそしてアドバイザーの側もより相手のことを知るために長期的な関係を築くことを目指すことになるし、自然と資産運用以外のことについても様々な視点を共有していくことになる。

結論、IFAが投資一任でもたらす高いリターンが称賛されている、というのではないし、それを標榜するのも少しおかしな話である。

顧客とアドバイザーがお金にまつわる様々な悩みを共有しながら、長期的な関係が築けたならば、その一つである資産運用においては投資一任が良しとなることが多い、のは確かなことであろうと思う。

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