久しぶりにこの話をしてみようかと思ったのは、2021年3月30日、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会にて、香港の選挙制度見直しが全会一致で承認されたことがきっかけである。さて、香港の政治局面の変化が今後どう影響するか、少しだけまとめてみよう。

香港の治安は良くなるか

2019年〜2020年の香港は住む人、旅行者、両方にとって治安が良い状態であったとは必ずしも言えない。それは通勤や通学、あるいは渡航に不安を伴う局面があったという意味で少なくともそう言える。そして、その根本的な問題をどのように解決すべきか、ということに政府として苦心することになったのは間違いない。

結果として、中国政府による愛国者治港という方向性は固まってきており、2021年からは実際に機能するかどうかの段階に突入する。

衝突の起きづらい政治体制という意味ではアラブ首長国連邦やシンガポールが近いかもしれないが、これをもって「治安が良い」というかは人それぞれであろう。

ただ、方法論はさておき、多くの人にとって香港が治安が良くなることを願うことに変わりないだろう。

政策意思決定のスピード感は増すかもしれない

アメリカのように、二つの勢力が拮抗していることで健全な議論が促されているかどうかははっきり言って場合による。

少なくとも今後の香港において、政策意思決定のスピードに重きが置かれていることは間違いないだろう。だからといって、ラジカルな(急進的な)変化が起こるのか、という点に関しては、時間が経ってみないと分からない部分がある。

移民が大量に発生したり、昨今のような議論があったりしたのは1997年の返還時も同じである。返還後の香港の成長が目覚ましかった面もあるなかで、結果として、この先の香港をどう評価するかも、今この瞬間に判断できるものではないし、されるものでもない、とは言えよう。

政治局面の変化が投資家に与える影響

投資家マインドとして、この変化がどのように捉えられるか、という意味では、意見は分かれよう。

一つには、方向性が定まったことで将来に対する不確実性が後退していくことを好感する見方、もう一つには、ある種の放任主義(レッセ・フェール)を香港らしさと捉えたとき、その要素の減少を懸念する見方、などがありそうだ。

世界の都市もまた様々な競争にさらされており、内部環境が変化せずとも外部環境が変化することで都市の盛衰は訪れる。ときを同じくして東京もまた国際金融センターとしての香港と競い合う姿勢を見せたわけだし、英国のEU離脱に関しても、決して小さな話ではなかった。

しかしながら、都市の評価もまた時間とともに、様々なプレイヤーが各々の判断で行っていき、自ずと分岐するものに過ぎない。金融だけではない、経済都市としての香港がどうなっていくか、まさに一人ひとりの目で見て判断するしかない。多少なりの新陳代謝はあり得よう。

香港という地に住まう一人の人間として

一般論として、海外に移住する場合忘れてはいけないし、今後海外で働こうと思うのであればより意識すべき点としては、外国人は現地経済の補完をしているに過ぎない、ということであろう。つまり、① 何か自分のやりたいビジネスをしつつ現地の雇用を生み出すか、② 現地でのビジネスにおいて外国人でなければできないことを提供するか、のどちらかが柱になってくる。“ただ海外に住みたい”という個人の願望が果たしてそのまま通るかどうかは分からない。旅行もまた(ビザ免除の特別待遇も含めて)許可されてはじめてできるものだし、まして住む、働くとなるとこれまた許可されなければ実現しようもない。

この感覚はアメリカやシンガポールでは最近顕著に現れているように聞き及ぶが、香港においても強く意識されるのかどうか、今のところ明確な方針が出ているわけではない。今まで香港に関して、あまり深く考える必要はなかった視点かもしれないが、出てもおかしな話ではない、ということは今後香港に来て働こうと思う人がいるとすれば頭の片隅においておいてもいいかもしれない。

対日本という意味でも、急激な姿勢の変化に至っていないことは日本人として一つ安心材料であることは間違いない。つまり、政治局面という一つの転換点を除いてみたならば、パンデミックという特殊事情の中でのリセッションがありつつも、香港としてはまだまだ役割があるし、旗を下ろしてもいない。

ビジネスや生活への影響を考えることは必要だが、一方で自らが政治的リーダーになったかのように思考を巡らして神経をすり減らしてもいけない。難しいことを考えてはみたものの、結局のところ、ガチャガチャと音を立てるローカルな食堂に人の賑わいが戻り、各地のショッピングモールに観光客があふれるようになることが、香港の人々にとっては今一番必要なことなのは間違いないだろう。