多くの人にとって、遺言を書くことは先延ばしにされがちであるし、時に手遅れにすらなっている。しかし、海外在住者にとって、ファイナンシャルプランニングの過程において、遺言(Will)を検討することが極めて重要になってくる理由について本稿では解説をしたい。
目次
そもそも遺言とは何か
遺言というのは、あなたの死後に金銭、不動産、あるいは所有物を分配するための指示書である。もし両親ともに亡くなってしまったときのため、未成年の子どもの後見人(Guardian)を指定することも重要な役割である。遺言の原理原則は何世紀も変わっておらず、法的要件に沿って署名(sign)し、立会(witness)する。
遺言がない状態で死ぬとどうなるのか
もしあなたが故郷を離れて諸外国を渡り歩き、足跡を残してきたのであれば、遺言がないだけで、複雑なパズルが残される可能性がある。仮に署名をしていた書類があっても、立会がなければ法的効力はないかもしれない。口頭で指示をしたとして、それが法的効力を持つケースは稀である。
遺言には法的要件が存在し、それを満たさなければ、遺言がないものとして扱われる。しかも、それぞれの国や、あるいは地域毎でその法的要件は変わってくる。
母国での遺言は他国で有効なのか
まず第一に、海外在住者にとって母国だと言える場所があるのであれば、少なくともそこに遺言があることが望ましい。それに加えて、大きな資産の所在地毎に遺言を別途作成することがよいとされる。もし公用語が異なる国なのであればまず間違いなくあった方がよいといえる。とりわけ不動産や土地のようなその場所に紐付く資産に対しては必ずである。
もちろん、一つの遺言で全てをカバーできないというと言い過ぎであるが、それぞれの国にそれぞれの事情があり、相続するのに数十年かかってしまったらどうだろう。そのころには相続人が亡くなっているかもしれない。
全ての資産は遺言に基づいて処理されるのか
仮に共同名義で保有しているものがあれば、片方の所有者が亡くなればもう片方の所有者の手に完全にわたることになる。
また、遺言以外にも委任状(Power of Attorney)を用意することも有効である。例えば自身の精神面あるいは判断能力に支障をきたす事態を想定するのであれば、配偶者や子どもに委任することを考えるべきである。コモンローの国では極めて強力な文書であるため、これもしっかりとしたプロセスを経る必要がある。
遺言に配偶者や子どもを含めないという事は可能か
コモンローの国では遺言に配偶者や子どもを含めないということは可能である。しかし、その含まれない人物というのが、当該資産に対して何の権利も主張しないことがカギになる。扶養されていたのにいきなり遺言で外されるというのは通らないこともある。シビルローの国では遺言に配偶者を含めないということは難しいが、その割合を少なくする方法は用意されている。
遺言執行人は家族のメンバーでないといけないのか
一般には、遺言執行人(Executor)にはプロの、つまりは遺言の作成を手伝った会社がついてくれることを期待する人が多い。もちろんそれは可能ではあるが、相続手続きは時間がかかるという一点を除いては難しくない。特に予め遺言を準備して文書化しているのであれば特にそうである。もちろん、家族にとって異国の地であれば難易度はグッと上がるわけだが。
可能であるならば家族のメンバーかあるいは信頼できる友人を遺言執行人に任命し、その上で、プロのサポートが必要なときに依頼できる体制にしておくことはいいかもしれない。相続手続きに法外な費用がかかってしまった、といった事態は避けられるし、もちろん本人らが難しいと感じたならばプロに任せるという選択が残る。
両親が共に亡くなった場合の未成年者のケアはどうするか
後見人(Guardian)がいかなる形においても任命されていなければ、それに相当する人物を探すことになる。もし適切な人物が見つからない、あるいは誰も後見人になりたくないという場合、成人するまでは裁判所のもと扱われることになる。
「相当する人物」については、祖父母や、父方の家系の人物などを辿るもので、必ずしも両親が生きていたら適当とみなす人物とは限らない。後見人の指定が法的に行われている必要があり、それがないのであれば、両親の願いは届かない可能性がある。
遺言は簡単に変更ができるのか
遺言は作ったらそれっきりのものではなく、必要に応じて変える必要がある。ただ、文章を二重線で消したり、余白に書き足したりすれば、遺言全体の法的効力がなくなる可能性がある。内容にもよるが、遺言を変えるときには、きちんとしたアドバイスを受けたい。
遺言の作成費用は高いのか
遺言の作成にかかる費用はすなわちどういう内容かによる。安い価格からスタートするものの、後から追加的な費用を請求するところもあるし、最初のコンサルテーションで一定の価格提示をしてそれでおしまいというところもある。
プロへの依頼である以上、無計画に依頼をするのはお互いに無駄な時間をかけてしまう可能性もあるので、スムーズな相談にできることは重要になってくる。およそ1−2ヶ月くらい見ておけば下書きから完成までを終わらせることはできるだろう。できあがった遺言は安全な場所に保管することも忘れないようにしたい。作ったはいいが誰も見つけられないのであれば遺言の意味がなくなってしまうのだから。
遺言の作成には費用がかかる。しかし、遺言がなかったときにかかる時間とお金、そしてそれが残された家族への負担になることは捨て置くべきではない。家族のための遺産が家族を苦しめては元も子もない。