アジアや中東地域でも独立系のウェルスマネージャーに勢いが出始めている。その背景にある業界特有の課題とは何か。
目次
独立系の固有資質とは
ウェルスマネジメントセクターに根強く残る批判は、透明性、客観性、顧客中心主義である。自社のサービスや製品に高い価格設定をしてはいないか、商品主導の投資運用ではなく、より一任性の高いサービスや、不動産や相続プランニングなどの付加価値を提供しているか、などは今日的にはトレンドと言える。
積極的な情報開示は常に望ましい。費用を開示されると、顧客は高いのか低いのかを気にするが、それ以上に、どのようなサービスにどのような費用をかけているのかはっきりと認識することの方が大事である、感じるようである。
サービスに見合うものであれば高い費用でも顧客は納得する。場合によっては、顧客が受けるサービスに対する支払い方法を選択できるようにすることも一つの選択肢かもしれない。
独立系でできることは、こうした裁量の部分であり、それは既に欧米のウェルスマネジメントでは観測された現象でもある。アジアや中東などの新興地域においても同様の道を辿ることは想像に難くない。
規制当局によるサポートが得られる
独立系のウェルスマネージャーは小規模に留まりがちであり、規制対応に割ける費用が少ないのではないか、という指摘は常にある。規制当局の側にしても、小さな業者にたくさんの人員を割くことは現実的ではない。効率的にサポートし、監督していくためにはデジタル化された環境は必要不可欠であり、そうした環境開発に対して費用を割くのにも、業界全体が伸びていく見通しがなければ難しい。
あるいは市場参加者の側から見ても、規制当局は敬遠すべき相手というわけでもなく、規制当局に対して革新的な支援を求めることだってあり得る。
新しい商品が市場に現れたとして、市場参加者とのコミュニケーションが密でなければ、市場の発展を阻害することにも繋がりかねない。規制当局によるサポートは極めて重要な要素であると言える。
ウェルスマネジメントが国策上重要な位置を占めているか、というのも実は肝心であり、香港、シンガポール、あるいはドバイといった地域においてはそのことが如実に現れている。規制当局による適切な監督が行われていることは顧客の安心にも繋がっている。
セクター自体が伸びている
セクターが伸びる、というのにも様々な観点があると思う。クライアントとなる人が増えること、クライアントを呼び込む企業が増えること、対応する業界の人員が増えること、業界に新規参入が見られること、などである。ヒト、モノ、カネ、情報どれをとっても総合的に伸びていくことが望ましい。とりわけ競争的な環境が用意されるのであれば、顧客にとってメリットもあり、そして働いて稼ぎやすくもなる、と言える。
ウェルスマネジメントの観点からすれば、シンプルには富裕層の数が増えることではあるが、そのための複合要因としてはやはり金融以外のセクターによる事業環境が良好であることもあるにはある。富裕層以外の人たちも増え、景気が良いことも必ず後押しにはなる。
やはり活気があるに越したことはない。
起業家精神と忍耐強さ
私自身、この業界に来て4年が経つが、それまでに築いた金融に関する知識や経験の前に、もっと必要だと思っていたものは、起業家精神と忍耐強さだし、実際にそれは必要だったと思う。今のウェルスマネジメントに求められているのは、顧客の資産という数字だけを見て態度を変え、テンプレ商品押し付け的なアプローチをすることではないし、典型的な営業に見られる、一日何アポみたいな話でもない。未だに顧客の側にも、取引ベースのリレーションを求める人も多いのがアジアの特徴であり、それはこれまでの経験の蓄積の結果であっても、顧客が求める以上、業界は変わりづらい面がある。
私ができるのは、時間をかけて顧客との関係を築くこと、顧客のために真に動けるために必要なことを顧客に伝え続けることである。そして顧客のために真に動いていることが理解できるようなインフラとネットワークを構築し、関係拡張に務めることである。この手の話は、ビジネスが軌道に乗って勢いがつくまでには絶対に時間がかかるし、関係が築かれ、約束を果たせば、報酬は必ず後からついてくる。
世代交代の難しさ
ウェルスマネジメントにつきものな課題は世代交代である。顧客の世代交代もあるが、何よりウェルスマネージャーの世代交代ほど難しいものはない。なぜかというと、そこに金銭的な利害が絡むからである。一部には顧客を売り、それを買い取ることを良しとするファームもあるのには頷ける。
ただ、根本的にはオーナー社長の世代交代が難しいのと変わらない。現任者が金銭的な利益にしがみつくほど、スムーズな世代交代を阻害する。あるいは後任がなかなか見つからない、という課題も大きい。別の担当者がつくことをよしとしない顧客だっているだろう。きっぱり辞めようと思えば思うほど、自分が築いてきたものの大きさに気付かされるのかもしれない。顧客とのリレーションを理由に引き継ぎが上手くいかないというのは体のいい言い訳であることもあり、実際は退職のための手切れ金でもあればさっさと辞めているであろう人、というのはいる。そうそう割り切れるものではないが、やはりここでも欲しいのは顧客の視点ではある。
地域的な差はあるか
ウェルスマネジメントの世界には地域的な差が確認できる、とも言われる。それは文化的なものもあるだろうし、セクターとしての歴史の問題もある。例えば、中華系の顧客であればもったいぶらずに儲け話としてさっさと切り出した方がいいし、相手もそれを求めているが、東南アジア系の顧客であれば、ゆっくりと話をすることを好み、なんだったらウェルスマネージャーの方が顧客かのように丁寧に扱われることもあるという。もちろん十把一絡げな言い方はよくないが、確かな傾向はあるのである。
しかし、それを地域的な差と割り切るのも意外と難しく、マネーの成り立ちにも関係してくる。一家で代々守ってきた資産と、一代で築き上げた資産と、数年で爆発的に生まれた新興マネーでは、やはり見方もそこに宿る思いも違っていて当たり前である。
逆にいえばマネーの性質に合わせたサービスが提供されているので、その他の地域の気風が合わないのであれば、別の地域にマネーを持っていく、ということも選択肢にはなってくる。このあたりは理屈ではなく感覚的なものではある。お金も類は友を呼ぶ。
今後の発展に重要なこと
透明性が高く、信頼でき、優れたアドバイスとはどのようなものなのか、そして顧客が支払うべき妥当な手数料とは何なのか、について顧客と適切なコミュニケーションを続けていく必要がある。現状のウェルスマネジメント業界では、隠れた費用やキックバックなどによって、顧客の知らない手数料を受け取っていたり、商品主導での提案が多く、顧客が結果として間違った行動をしているケースが散見される。
包括的なアドバイザリーというと、顧客の囲い込みであったりパッケージ販売だったりを想起してしまうし、実際にそうなっているケースはある。銀行に行ったはずなのに保険を買わされて帰ってくることや、何か外部のサービスを紹介してもらおうと思って悩みを打ち明けたのに、キックバックの発生する業者しか紹介してもらえない、ということに繋がっている。あるいは何か具体的に提供してもらえると思ったのに、ただ紹介をしてくるだけで、本人は何もしていない、ということもある。
本来の独立系の強みとは、顧客に最適なサービスの組み合わせを自由に構築し、提供することにある。顧客自身が誰の手も借りることなくできること、というのはウェルスマネジメントの分野では多くはない。一方で、求めていたサービスに辿り着いている、と感じている人も少ないのが現実であるとは思う。顧客の側もウェルスマネージャーに違いがあることを認識し、時間をかけてウェルスマネージャーを選ぶ、ということをやっていくことも必要である。
バイアスのかかっていないアプローチを行い、真の専門知識でもって、グローバルな選択肢を示すことができれば、それだけで突出した存在になれる。ウェルスマネジメントに携わる中で、独立系のウェルスマネージャーに勢いがある最も大きな理由である。