プライベートバンクは巨額の資金を扱う金融機関である。それゆえに何かあれば顧客の資産に各国で相続税がかかることは容易に想像がつく。

この大前提のもとに、上手く資産承継を促すために、プライベートバンクではどのような相続対策が提案されているのであろうか。

相続問題へのアプローチ

プライベートバンクを利用すること自体が相続対策か、と言われるとそうではない。所詮は銀行口座である。

また、海外のプライベートバンクを利用したところで、CRSなどの国際的な税務情報交換の仕組みが存在することにより、資産が隠せるわけではないからだ。

そこで、プライベートバンクで利用できる相続対策サービスがあるかどうか、がカギになってくる。

最近は各プライベートバンクでも顧客の囲い込みのために、様々な業者と提携しているのが確認できる。もちろん外部のサービスとの連携にすぎないので、それぞれを自分で探してくる、あるいは一部を自力で何とかする、というのも可能だとは思うが、やり方を間違えると結果が大きく変わってくる可能性があるので、付き合いの長いプライベートバンカーと取り組むことを望む傾向はあるように思う。

プライベートバンカーの中には、相続対策向けの生命保険を販売したり、家族の間に入って相続関係の整理をしたりする人もいる。

資産管理会社の設立などで、日頃の節税も含めた、相続対策を提案することもあるようだ。信託銀行などを使って家族信託を利用したりするのも、徐々に浸透しつつあるとは言えよう。

大きくまとめると、以下のような3つのアプローチが考えられる。

  • 増やして納める ー 相続税納税資金を準備する
  • 相続財産を減らす ー 相続税の対象となる資産を圧縮する
  • 制度を利用する ー 家族信託やPPLI(私募生命保険)

相続対策に取り組む上で、資産の所在地は非常に重要なポイントである。適用される法律が変わるからである。したがって、日本なのか海外なのか、また海外においてもどこの国なのか、が議論のスタート地点となり得る。

プライベートバンクの利用目的が資産運用だったのであれば、ひょっとしたら資産運用業務しか提供しないプライベートバンクを利用してしまっているかもしれない。

プライベートバンクとは三世代のお付き合いをする場所、という意識もあるかもしれないが、サービスを提供する側がその要望に応えられる体制をもっているかは分からないのだ。お付き合いを大事にするあまり、自らの相続対策が疎かになってしまってはいけない。

増やして納める

一つ目のアプローチは「増やして納める」である。相続税は相続財産全体にかかるのだから、資産を増やしてはダメなのではないか、と思う人もいるかもしれない。

ポイントは、どんなに相続税率の高い国でも(日本はその筆頭であるが)必ず税率の上限があることである。相続資産が多いほど、相続税は高くなるが、その税率はどこかで歯止めがかかる。であれば、納税資金分を明確に工面してあげることができれば、残りはしっかりと承継ができる計算になる。

資産運用で増やしてもいいが、そんなに急速には増やせないので、一般には生命保険を用いることが多いだろう。支払った金額の何倍も死亡保障をかけられれば、そこから納税資金を捻出できる。人によってはプレミアムファイナンスなどで借り入れを行い、保険にレバレッジをかけることを選ぶことがある。

生命保険のいいところは、複雑な評価の必要になる資産ではなく、純粋なキャッシュで、しかも比較的短期間で手元に届くことである。相続税の納税のタイミングは思っているよりは早い。資産を承継するために相続人が借金をするようなことのないように、また、その他の資産の処分にかかる十分な時間を確保する目的でも、生命保険は有用である。特に、不動産や自社株など、売却も分割もしづらい資産を持つ場合、納税資金としてのキャッシュは貴重である。

相続財産を減らす

相続税は相続財産の規模に応じて変わる。そのため、相続財産を減らすことができれば当然ながら税負担も軽くなる。個人で資産を保有していればそのまま相続財産であるため、資産管理会社の設立は一つの選択肢にはなる。あるいは贈与などを通じて早いうちからこまめに資産継承を行うことはもちろん有効であるが、規模が大きいとなかなか進まない。

もちろん資産管理会社を作りさえすれば良いというものではなく、個人資産と法人資産のあり方について十分な検討を重ねることによって、相続対策に繋げることはできる、ということである。

制度を利用する

前2つのアプローチは税金に焦点を当てたものだが、相続対策とは本来、相続を円滑に進める準備、である。したがって、相続にかかる手続きや時間を削減することも相続対策の中核をなすべき事項である。海外資産の場合、海外トラスト、家族信託の設立によって、相続手続きであるプロベートを回避することが可能になる。予め家族信託の設計に、相続人に入ってもらっていれば、当人が亡くなった後も問題なく資産が管理できる。あるいは当人の意思をより反映した形でも資産継承が行えるだろう。

また、プライベートバンクを利用していると、預かり残高やその関係を維持することも一つのプライオリティになってくる。このような場合はPPLI(私募生命保険)の利用が検討できる。

スイスやシンガポールなどにあるプライベートバンク口座自体をカストディとして利用し、全体を生命保険というラップでくるむのである。これによって当人に万が一のことがあったときに口座が閉鎖されるということはなくなり、また受益人を指定することで受け取る人物を明確にすることができる。

プライベートバンクにおける相続対策

プライベートバンクにはリレーションがある。これは非常に大きな価値であり、一方で、それ以外の場所で得られるよりよいサービスから目を背けることにも繋がる。

プライベートバンクは是が非でも残高を維持して欲しいと考えて動くからである。せっかく稼いで、そして増やしたお金なのであればより多くを家族に渡したいと考えるのは自然である。

また、税金や制度に焦点が当たりがちであるが、相続対策の要は家族とのコミュニケーションであったりする。海外に資産を置いているのであれば、受け取った側が難なく引き継ぐことができるかどうかも大事だし、働き始めたばかりのご子息に巨額の資産が渡ったら正しく使う準備ができていないかもしれない。シンプルに相続問題は争族問題に発展したりするものである。死んだ後のことは知らないと割り切る前に、家族のことを考えて動くことが相続対策には求められる。

妥協をすることなく、ご自身の利益に沿って相続対策に取り組めるところを探してみてはいかがだろうか。

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