一代で財を築いた会社経営者、いわゆるオーナー社長が資産運用に関してどのような選択肢を持つことができるのか。一番儲かる本業を継続しながら、いかに資産運用を組み込めるかを考えるのがポイントです。
目次
オーナー社長の定義
社長というのは一般には会社を経営する人で、最近ではCEO(最高経営責任者)という呼び方も普及しました。一方、オーナーというのは会社を所有する人です。つまり、「オーナー社長」というのは自らが経営する会社に出資しており、絶対的な影響力を行使する(株式持分50%以上)とともに、経営においても絶大な手腕を発揮する人物のことを指します。
オーナー社長が経営する企業の多くは中小企業に分類されますが、経営と所有が一致しているので、大企業に比べると、ある一面ではスピード感のある経営ができ、またある一面ではワンマン経営だと揶揄されることもあります。
事業で稼いだ余剰資産の多くはそのまま
オーナー社長にとって、会社の経営に全力を注ぐことがまず第一のミッションとなっていることがあります。会社経営が軌道に乗り、細かな算盤よりも、大きなキャンバスに夢を描くことに一生懸命になっているころというのは、資産運用には気が回りづらいものです。
実際、「放っておいても資産は増えるばかりだ」という呟きも聞こえてくることが少なくありません。回り始めたビジネスはそれ自体は一つの「金のなる木」なわけですし、利益率も、単純な証券投資に比べれば高いかもしれません。そんなときにはどれだけ事業で稼いでいても余剰資産の多くはそのまま放置されることはしばしばあります。
事業への再投資が最初の選択肢
オーナー社長は主には一代で会社を築いた人、あるいは家族経営で脈々と歴史を重ねてきた人でしょう。次なる「金のなる木」を求めて、事業投資に対しては積極的です。
加えて、本業というのは最も自分が時間と労力を費やし、かつ熱意も振り向けてきた分野なので、一日の長が必ずあります。「本業が一番儲かる」とおっしゃるオーナー社長が多いのも肯けます。事業シナジーを活かして多角化を、などど一時的に買収などに熱心だったとしても、ぐるっと回って「餅屋は餅屋」に戻って来ることが多いですから、最初から盤石な経営をする方を選ぶ人も多いです。
法人でも資産運用は可能
本業は儲かるという話と、稼いだ余剰資産をどうするかという話は本来は分けて考えるべき話です。ある種の資本効率ですね。資産を不活用のまま置いておく手はありません。
例えば、事業を通じて数十億円という資金ができたとしても、そのまま放置しておくだけではもったいないですし、かといって常に事業拡大ばかりを目指すことも正解とは言えません。かといって、すぐに株を手放して現金化することも選択肢には上がってこないでしょう。そこで考えなければならないのは資産運用です。
何も資産運用で本業を上回る利益を上げようなどと思う必要はありません。不稼働資産を活用すれば良いだけです。特に本業が順調なときほど、余剰資金が不活用になっていることに気づきづらく、逆に本業が不調になったときほど、資産運用で何とか乗り切ろうと考えるので、この点は注意が必要です。
法人でできる資産運用の選択肢
中小企業の資産運用において重視されるのは
「安定運用」
でしょうか。資産管理法人である場合を除いて、資産運用に頼って収益をまかないたいというケースは多くありません。そうすると自然と、資産運用ではリスクを取らない、ということになります。
資産運用の選択肢としてよく出てくるのは債券投資ですね。債券=安全というイメージは決して間違ってはいませんが、債券の中にも複雑な商品はあります。特に仕組債という商品は、投資家にとって魅力的に見えるように作っていますが、仕組の多くは「ゼロサムゲーム=得する人がいれば反対側で損する人がいる」ものですから、購入する際には注意が必要です。国債や社債ならまだしも、仕組債ともなれば、もはや投機的な商品と考えて臨んだ方がいいでしょう。もし手を出すのであれば金融の専門家からセカンドオピニオンをとるのがよいかもしれません。
経営を一度身につけると、金融商品よりは実物資産である不動産に目が行きやすいというのはあるかと思います。不動産も経営の側面がありますからね。それでも、こちらも債券投資同様、キャピタルゲイン狙いよりはインカムゲイン狙いの方が多いでしょう。実際、不動産は様々な用途で利用することができます。
ただし、資産運用の選択肢の一つとしては、不動産はやはり流動性が低い(=売却に際して手数料と時間がかかる)ですから、結果的に出口が難しい投資であることに留意は必要でしょう。
あとは、保険を通じた運用は比較的安心感があるようです。後で触れる事業承継にも柔軟に対応できます。一方、日本の場合は節税を通じて資産を増やす、みたいなイメージを持ちがちですが、本来はしっかり増やしてその分適切な税金を納める、ということが大事になってきます。安易に法人保険などで節税策を追い求めると、結果的に事業の拡大を阻害することになりかねません。
個人の資産と会社の資産の区別をすべき
オーナー社長の場合、個人の資産と会社の資産をほぼ境目なく認識しているケースがあります。それ自体は不自然ではありませんが、例えば破産隔離などを考えると明確な違いがあります。
個人と法人の一番の違いは税金の取り扱いでしょう。税制度は法人の登記国などによっても異なってきますから、予めポイントを整理しておくことをお勧めします。法人資産をいかにして税効率良く、個人資産に変えていくか、などもオーナー社長の一つの悩みかもしれません。
事前に顧問弁護士や税理士の方々とお話しすることも必要になってきます。オーナー社長といえど、会社から利益を受け取る権利は当然ありますから、効果的に個人の資産を形成していくことも課題ではあるでしょう。
事業の承継という大きな課題を視野に入れる
オーナー社長の場合、多くは次の世代のことまで気が回りません。ただ、次の世代にどう繋げていくかを考えるときがいつかはきますし、考え始めることにはすぐに結論を出さねばならないときもあります。死ぬまで現役と思っていても、後に残される方々のことは気にしてあげたいものです。
予め準備ができるのであれば、経営の観点では、社長職のみを退いて外部から社長を雇い、自身はオーナーに徹する方法もありますし、所有の観点では、持株を信頼できる人物に売却して、別の事業に打ち込む方法もあるでしょう。あるいはパートナー経営者がいるのであれば、突然の死に備えて、株式相互買取予約権を設定して事業保全を図る必要があります。
事業の承継は、資産運用と無関係では?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はそうではありません。予め保険に加入して相続に備えることも資産運用の一つですし、退職金の準備をすることも法人としてできることです。あるいは、家族経営会社がしっかりと承継されるように、ファミリートラストを設計しておくことも一つのアイデアでしょう。
とはいえ、いざ承継となったときにこういう検討をする時間を設けるのは非常に難しいので、前広に選択肢を用意し、対策を取っておくことをお勧めします。
オーナー社長というのは概して孤独です。「こういうことはできないだろうか」「ああいうことはしたくない」等思うことがあるのであれば、社長だからと行って一人で悩むのではなく、呟くがごとく誰かに聞いてみることも大事かもしれません。きっと迷路から抜け出す術がおのずと見えてきます。