資産運用での「失敗」を正しく理解できていない人は多い。中長期で資産運用を継続していくにあたって最初に考えるべきこととは。
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運用で損失を抱えることは失敗ではない
資産運用で失敗したことはあるか、という質問に対して、多くの人は、損失を抱えてしまったときのことを話す。しかし、果たして運用で損失を抱えることは失敗なのだろうか。
答えはNoである。というのも、S&P500のような有名な株式インデックスを一つ選んでみても、価格は常に上下している。客観的な事実である。何年もかけて積み上げた上昇幅を一瞬でかき消すほどの金融ショックに見舞われることだってある。では、それは自分のせいなのか、というとそうではない。
一方で、投資を通じて、短期的にも長期的にも損失を抱えたくない、元本割れを経験したくない、というのは投資家としては実に素直である、と言える。
ただ、投資というのは、価格変動のリスクを引き受けることにより、対価としてリターンを得る活動であり、自分自身がどのくらいの価格変動のリスクを引き受けられるかが、対価としてのリターンの大きさを決めている、という話である。
短期的な運用の損失は時間が経てば解消されることが期待できる。同じリスクを取り続けている限りにおいて。問題は、損失を通じて人は心が揺れ動き、短期的に運用の損失を取り戻そうと躍起になったり、あるいは自分は資産運用が向いていないと思って諦めてしまったりすることである。
短期投資家と中長期投資家の違い
自らが短期投資家なのか中長期投資家なのかは予め区別しておいた方がいい。どちらも投資家であることに変わりはないが、両者の会話が噛み合うことはほとんどないからである。
短期投資家とは、日々の値動きのなかで適切なタイミングを捉え売買を繰り返すことで利益を積み重ねるタイプの投資家である。デイトレーダーである必要はないが、頻繁に投資のスタイルが変わっている人はこちらに属する。投資が好きであると豪語するタイプの人も多い。
一方、中長期投資家とは、日々の値動きに囚われることなく、時間をかけて着実な利益を受け取るタイプの投資家である。一旦、中長期投資家としての所作を身に付ければ、それ以上やることは多くない。投資をしていることは呼吸をするのと同じであり、大袈裟に息を荒立てることもない。
投資家のタイプの見誤り
資産運用における失敗に気付かない理由の一つとして、投資家のタイプの見誤りが挙げられる。ある時は短期投資家として活動し、ある時は中長期投資家として活動する人だっているが、どちらかといえば、資金の性質が投資家のタイプを決める面はあると思う。
よく考えてみて欲しい。自分の持っている余剰資金は、価値がゼロになっても困らないお金と、今すぐには使わないが価値がゼロになると困るお金に何となく分けられるのではないだろうか。それぞれいくらか、までは決めなくてもいいが、何となくその違いが感じられることが大事である。
ここに投資家のタイプの違いがある。つまり、お金には色がある。中長期投資向きのお金を短期投資で回せば失敗するし、短期投資向きのお金を中長期投資で回せば失敗する。
自らの投資家のタイプに気づいたとき、自分の周りに集まる資産運用に関する情報をふるいわける必要がある。残念ながら世の中的には短期投資向けの情報の方が多く、なぜなら日々変わるものの方がニュースにしやすいからである。そしてニュースとしては面白く感じてしまう。
本当の失敗は後になって気付く
資産運用の成功を、資産が増えることである、と定義する人は多いが果たしてそうなのか。
実は多くの場合、資産運用には目的があり、その目的が達成されることの方が、資産が増えることよりも重要だと感じ、それを成功だと感じる。
というのはどういうことかというと、例えば、老後の備えのために資産運用をしているとしたら、老後の備えに着実に取り組んでいる今を評価し、そしてリタイヤを迎えたときに十分なお金があると評価できる。何%資産が増えたか、はその備えを加速するのには役に立つが、結局のところ、リタイヤを迎えたときに十分なお金があればそれほど気にはならない。問題は資産運用をしなかったら、その十分と言える金額に容易には到達せず、リタイヤが先延ばしになったり、リタイヤ後の生活を楽しめなかったりする。つまり、ここに本当の失敗がある。
資産運用における失敗を防ぐには
資産運用において結果は大事であるが、結果は後になってみないとわからない。では、今の自分が資産運用における失敗を未然に防ぐには何ができるのだろうか。
目的を明確にする
資産運用は確かにお金を増やすための手段ではあるが、手段であって目的ではない。結局のところその増えたお金を使って何をしたいのかがより重要であり、目的が明確でないと失敗したと感じやすくなる。
投資金額を過小に設定しない
生活に十分余裕があるのに、投資はリスクだからといって、少額しか投資に回さないという人は少なくない。一見すると保守的で評価できるが、その割には、少額を雑に扱って高リスクな投資に振り向けている人も多い。なぜならそういう人ほど資産運用への期待値が高いからである。高リスクで少額取り組むよりも低リスクで積み上げた方が楽に目標に到達できることもあり、適正な投資リターンの目線を設定する重要性がここにある。
元本に執着しすぎない
投資した金額がちゃんと返ってくるかは確かに大切ではあるが、過度に損失を恐れると、本来得られたであろう運用成果を犠牲にしてしまったり、あるいは元本保証とうたいつつ手数料がやたらに高い商品に出会ったりすることに繋がる。それに、数字上は元本がそのままだったとしても、世の中でインフレが進めば、実際のところは資産価値が減ったことになっている。
投資期間を短くしすぎない
老後の資金、と言いながら、一年間の投資のリターンを気にしている人は比較的多い。あるいは実際1ヶ月経ったくらいでも投資のリターンの進捗に意識が向く人は多い。残念ながら、投資の期間を長く設定した以上、1ヶ月や1年で成果を判断するのは早い。目に見える成果が出るまで少なくとも3〜5年くらいはかかる。
個人で投資を行う場合も、長期で保有するつもりだ、と言いつつ1年くらいで気が変わる人は多い。投資とは、果物のように、苗を植えてから実が収穫できるまでには時間がかかるものであり、毎日眺めること自体は否定されないが、眺めたところで実はならない。非現実的な投資期間を設定すべきでもない。
雨の日も風の日も投資を続ける
金融市場にも雨の日や風の日が必ず訪れる。いつかは晴れるなどという子ども騙し的な話ではないが、そういうものだということをまずは認識しておく必要がある。晴れの日だけ資産運用を続けられたらひょっとしたらいいのかもしれないが、いつ雨や風に見舞われるかまでは分からないので、結局のところ、忍耐強く続けられるような資産運用を行うことが重要である。雨や風で吹き飛んでしまうような状態なのであれば、やり方を見直す必要がある。
資産運用を難しく感じる人もいるが、結局のところ自分の人生を充実させるための一つの手段であるからして、どのようなやり方が自分に合っているのかを探る必要はある。力まずに、上手く資産運用を取り込めたと感じられたなら、その先に待っているのは成功である、と言えると思う。