多くの人は、包括的でかつ最新の状態に保った遺産関係書類の重要性を認識してはいる。

一方で、その原本をどこに保管するかも同じくらい重要であるということには気づいていないケースもある。

保管の仕方次第では、誰かの手を大いに借りられるし、残された家族が多額の法務費用を払うことは避けられる。

遺産関係書類の原本保管

完成された遺産関係書類とは、本人が亡くなった場合だけでなく、本人の判断能力がなくなった場合に使われることを意図したものである。

いずれのケースも、これらの書類の中で、役割を果たすことになっている人物が、書類のありかとそのアクセスの仕方を知っておくことが必要になる。

結局のところ、原本が見つからないことにはあんまり役に立たないことが多いからである。

遺言における受益人であっても、原本に辿り着けなかったがために、法令に則っただけでは相続しないであろう遺産があったとしたら、不運であると言わざるを得ない。

例えば、あるオフショア地域の法律では、原本が見つからない場合、作成者はそれを無効にすべく破棄したのであると推定する。結果として遺言の複写を認めさせようとお金と時間をかけたとしても、その努力は実らない可能性が高い。原本と複写の取り扱いは国や地域によって微妙に変わり得ることは知っておきたい。

原本保管に関して、問題を回避する4つのオススメは以下が挙げられる。

保管に関する4つのオススメ

場所の選択

遺産関係書類及び、重要な法的書類は安全で、セキュリティの高い、理にかなった場所に保管する

多くの人は書類を、自宅にある、防水、耐火に優れた金庫またはファイルキャビネットに保管する。それ以外だと、銀行の保管庫を好む人もいる。どちらも良い選択ではある。

例えば原本を、自動車や、冷凍庫、浸水の恐れのある地下や、ガレージにある収納ボックスの一つに入れるのは推奨されない。理にかなった場所を選ぶことが、残された愛する家族を大いに助けることを知っておくべきである。

アクセスの確保

他の人が、本人の死または判断能力の喪失の際にアクセスできる状態にしておく

自宅の金庫に書類を保管するのであれば、金庫の鍵やその組み合わせの複製は用意しておくようにする。銀行に預けているのなら、信頼できる家族や友人が、本人の死または判断能力の喪失の際にアクセスできるようにしておく。

例えば、あるオフショア地域の法律では、委任を受けた代理人が、銀行の保管庫に入り、全ての中身を取り除く権利を自動的に有するわけではなく、委任状原本の捜索といった限定的な目的のために、保管庫に入ることを許されるだけの場合がある。

したがって、信頼のできる家族に守らせることが、書類を守るという意味でも重要になってくる。共同名義に名を連ねるようにしておけば共同名義人は金庫の中身にアクセスできる可能性が高い。ただし、そうであると勝手に想定するのではなく、実際にそうであることを銀行に事前に確認はしておいた方がいい。それぞれの銀行で方針や手続きは異なり得る。

該当者への伝達

遺産関係書類に連ねた名前の人物には原本のありかとアクセスの仕方を伝えておく

伝え方も書面の方がよい。口頭だと忘れてしまうかもしれない。もし金庫に書類を保管するのであれば、代理人や執行人に合鍵を持たせるようにする。もし銀行の保管庫に預けてあるのであれば、代理人や執行人にその保管庫の番号と、保管庫のある銀行の支店の住所を知らせるようにする。銀行側も場所を移転する可能性があるので、その場合は、ただちに新住所が伝えられるようにしておく。

書類のアップデート

混乱を避けるために、古い、無効になった遺産関係書類を破棄しておく

残された家族に、古くなった遺言や委任状を使おうと躍起になって欲しいと願う人はいない。誤解や家族内でのトラブルを防ぐためには、有効な遺産関係書類のみを残すことが大事である。

相続財産の調べ方

生命保険契約照会制度

どんなにリストアップしていても、本当に網羅できたのかを確かめる方法が生命保険の場合にはある。日本で生命保険協会加盟会社全社に対して保険契約の有無の照会を有料でかけることができる制度であり、2021年7月にスタートした。

いつでも照会できる、というよりは本人の認知能力が低下した、あるいは死亡したなど、本人に生命保険契約の有無を聞くことができない状況に利用するものだが、相続人にとっては有難い。実際の照会結果は以下のような形である。

登録済加入者情報(証券)

どこの会社の株式を持っていたのか、など細かい銘柄の情報はわからなくても、被相続人が利用していた証券会社が分かる場合は、相続人からその証券会社に問い合わせることができます。

ただ、そもそもどの証券会社なのか、あるいは漏れがないのか知りたい場合は、日本で口座開設している証券会社、信託銀行を有料で照会できる制度を利用します。紹介先は、証券保管振替機構(ほふり)です。

預貯金口座管理制度

現状、通帳やキャッシュカード、銀行からの郵便物を手掛かりに生前取引のあった銀行を把握するしかありませんが、2025年3月末ごろには一斉照会ができる制度が稼働する見込みとなっています。

所有不動産記録証明制度

現状、固定資産税納税通知書や登記簿原本などを手掛かりに所有不動産を把握する、あるいは市区町村が管理する「名寄帳」くらいしかありませんが、2026年2月ごろには一斉照会ができる制度が法務省により整備される見込みとなっています。

保管もエステートプランのうち

遺産関係書類の保管に関する論点は、どんなに書類を綺麗に整えた人でも発生する。

本人は、きっと誰かが気付いてくれると思っていても、あるいは伝えた気になっていても、本人でない以上、そのことを日常的に考えている人はいない。

数ヶ月ですら使わなかった銀行口座の暗証番号を本人が覚えていないのと同じである。記憶という曖昧なものに頼ってはいけない。

保管に関する注意点はどこの国でも大きくは変わらないが、微妙な違いがあることは想定される。

国や地域毎のエステートプランを作成した後は、保管方法についても合わせて確認しておくとよいだろう。お手伝いが必要であれば、ご相談いただきたい。

↓ この記事が気に入ったらシェア ↓