本稿では、資産運用におけるケーススタディ(具体例)を解説します。テーマは
「教育資金を用意しつつ老後に備える」
です。独立系ファイナンシャルプランナーの立場からお話ししてみます。
目次
シチュエーション
現在、生まれたばかり(0歳)の娘さんがいる34歳のKさん(日系企業の海外駐在員)。32歳の妻Mさんから、娘の教育資金をどのように貯めていくか真剣に話し合おうとももちかけられました。
妻Mさんが懸念していること
まだ娘は生まれたばかりなので、Kさん自身は教育資金をあまり心配していません。一方で、妻Mさんは、教育資金が最も今後の経済的負担として大きいことを母親から聞かされました。
さっそく娘のために学資保険を用意しておかないと、と思っているようです。
妻Mさんの相談に対して夫Kさんの取ったアクション
夫Kさんは、娘のためにもしっかり働いていこうと心に決めたばかりです。もちろん教育資金のことは大事だと思いつつ、まだ若いので働けなくなることへの不安はありません。
「妻の心配も今だけだろう」と思ってしばらく放置する作戦に出ましたが、夕食の度に聞かれるので少し真面目に考えてやらないとな、と思い始めました。
ただ単に貯金するよりは、折角なら資産運用の話でも考えてみるか、ということで商品を含めて検討することにしました。
運用の目的、期間、金額を決めていく
当初、Kさんが自分なりに調べて想定した、資産運用の目的設定と目標額、運用期間、そして目標金額は以下のとおりです。
《プランX》
- 【目的】教育資金(娘のため)
- 【期間】10年間積立
- 【金額】目標1000万円(大学進学を想定)
ちなみに、その他にKさんが呟いていたことは
- ①教育資金は準備してやったらいいけど、どこの大学や大学院出るとかは子どもの意思だし、1000万円で足りるのかどうかはよく分からないなぁ
- ②娘のことも大事だけど、妻との生活も何か考えてやりたいよなぁ
- ③そもそも自分って退職金どれくらい出るんだっけなぁ
でした。
運用プランの例
Kさんが考えたのは教育資金ではありましたが、教育資金の場合、実際どのくらい必要なのか、あるいはそもそも親がどれくらい払うのか、は不確実な面がありますので、その点を考慮に入れられるといいかもしれません。
また、月々支払っていく積立スタイルをとるとしたら、比較的保守的な運用が好まれます。日本での成人年齢である20歳を仮に一つの目安としてみましょう。
円建てで積立運用をしたケース(運用利回りが0.1%の場合)
月8万円×12ヶ月×10年=960万円
娘20歳で解約 975万円 (960万円 + 利息15万円)
米ドル建てで積立運用をしたケース (1ドル=105円を想定、運用利回りは3%後半)
月530ドル×12ヶ月×10年=63,600ドル(668万円)
娘20歳で解約 98,297ドル(1,032万円)
積立に要した費用は【約300万円】の差がありますが、娘さんが20歳になったときの解約金の差はほとんどありません。ざっくりした計算ですが、仮にタイミング悪くドル安円高になっていた場合、およそ1ドル=99円以下であれば円建ての預金に比べ、損が出る可能性があります。
この例において、利回りの高い外貨建てで運用をすることのメリットの可能性は理解できるかもしれませんが、一方で、デメリットとは言わないまでも、必要な教育資金が本当に1000万円かどうか(要は、今よりも費用が上がっている可能性はないか)であったり、子育てが終わった後のことまでは想定できていなかったりすることには気づくべきです。
そこで、資産運用の目的設定と目標額、運用期間、そして目標金額を以下のとおりに変更してみましょう。
《プランY》
- 【目的】教育資金(娘のため)+ 老後の備え
- 【期間】10年間積立
- 【金額】元本を維持しつつ、20年後に1000万円を捻出
米ドル建てで積立運用をしたケース (1ドル=105円を想定、運用利回りは3%後半)
月1,766ドル×12ヶ月×10年=212,000ドル(2,226万円)
娘20歳で一部引き出し 115,657ドル(1,214万円)& 元本212,000ドルを維持
Kさん65歳以降毎年引き出し 毎月800ドル(8万円)& 元本212,000ドルが増加
プランXとプランYで決定的に違ったこと
もちろん積立の目標額が高くなったので、積立の負担も大きくはなりましたが、プランXではお子さんのことだけを考えていたので、積み立てた運用を解約したら後には何も残りません。
一方、プランYでは教育資金が予想よりも大きくなった場合にも対応できるほか、予定通りであれば、1000万円を捻出したあとも積み立て元本は残っています。
プランYにすると毎月20万近くですが、ボーナスも含めると、一生懸命働くことのできるKさんにとって過度な負担とはなりませんし、何より取り崩した後も元本が残っているのが大きいですね。
最後にKさんの呟きのフォローを
- ①進学に関するお子さん自身の意志に関しては、このプランで十分に考慮できているのではないかと考えます。教育資金目的とはいえ、学資として使わなければならないわけではないですから。お子さんが金銭面で親の力を借りないようであればそのままお二人の老後の資金に回せばいいです。
- ②まずはお子さんのことを、という妻の意志も尊重しましょう。備えは早い方がいいですから、柔軟に切り替えができるプランを用意しておくことが大事です。
- ③しっかりと元本を残して運用を継続することは退職後の備えとしても有効です。
ご相談のきっかけは何でも構いませんが、一番大事なのはこの手の話をご自身の頭の中でぐるぐるしすぎないことです。人間なのでKさんのように色んなことを同時に考えるのが普通です。
課題を切り分けた方が良いときもあれば、将来の不確実性を踏まえながら複数の課題を同時に解決することを考えることもできます。是非シミュレーションしてみましょう。
最終的には本人の納得感が大事になってきますが、商品にこだわりすぎるとより良いソリューションを見失うことにも繋がります。