プライベートバンカーとは“富裕層の金庫番”とも言われる存在だが、そもそもどんな役割を担っているのであろうか。そして、果たすべき役割とは何だろうか。

理想と現実から見えてくる、プライベートバンカーが果たすべき役割、そして存在意義について解説してみる。

“番頭”か“貧乏神”か

プライベートバンカーにとって、クライアントの持つ資産の規模は重要だ。なぜなら、その資産から自らの報酬が支払われることになるからだ。したがって、太い客ほど大事だ、ということになろう。大きなクライアントと懇意になるだけで一生飯が食えると言っても過言ではない。

ただし、それはきっとプライベートバンカーに限った話ではなく、何のビジネスでも同じだ。大きな案件をとってくれば、ビジネスは上手くいく。

プライベートバンカーは自分のことを番頭だと自称することがある。

なぜなら、クライアントの金の流れを把握し、そして隠れたブレインとしても働くからである。

個人のことでも会社のことでも何かあるごとにプライベートバンカーにとりあえず意見を聞いてみる、という人は少なくない。それくらい、クライアントのことをよく知り、そして頼りにされる存在になることができる、という意味ではある。実際、よい番頭は上手く切り盛りをし、クライアントを成功に導くだろう。

しかし、現実には貧乏神になり下がるケースも少なくない。

これももちろん、プライベートバンカーに限った話ではない。家族経営の会社で番頭が私利私欲に走れば会社は倒れる。シンプルに大きな資金の横流しがあれば分かりやすいが、大抵の場合はじわじわと会社が蝕まれる、ということになろう。

人柄は良い、誰からも嫌われていない、だが必要かと言われるとそうでもないのに、その場から外そうとすると不思議と上手くいかない。こういうケースは要注意だ。

プライベートバンカーの理想

プライベートバンカーとは、法律と金融の専門知識を駆使して、富裕層とその家族の財産を守る存在だ。そう、信託と財産のプランニングを扱う専門職なのだ。しかし、この分野が職業として認知されるようになってまだ日は浅い。

一つには、資産を増やすことに躍起にはなれても、財産を守るということが可能であるという認識が薄く、もう一つには財産を守ることへのモチベーションが低い。

つまり、財産を“守る”という行為には、いつかどこかで発想の明確な転換が必要になることを意味している。プライベートバンカーとの出会いは、この転換を加速させよう。

法的、組織的、金融的に、そしてどのような構造で資産を保有するのが最適か、その資産の拠点をどの地域におくべきか、家族にいつ、どのようなことが起こればどのようなアクションをとることが最適か、判断を下すことができるようになる。

専門職だと言ったが、プライベートバンカーは、弁護士と税務顧問と、会計士と投資アドバイザーをひとまとめにした存在を期待されることが多い。これではまるでスペシャリストではなくジェネラリストだ。専門の掛け合わせができることは最大にして最高の理想ではあるが、このような人物がいれば神業の領域ではあろう。

現実にはそれぞれの分野にプロがいるので、それを取りまとめ、建築家のごとく設計し、そして自らが作り出したものを維持管理する存在となることができれば上々だ。

プライベートバンカーの現実

全てのプライベートバンカーが優秀なわけではない。所詮は銀行員ということだってある。

それに、勤め人である限りにおいて、所属する組織に収益を落とすことが最大のミッションだ。資産を必死で防衛できてクライアントの笑顔が見られたところで、所属する組織から褒められるとは限らない。

プライベートバンカー自身だけでなく、プライベートバンカーの判断基準、生きがいに影響を与える要素もまた考慮に入れておかなければならない。最低預り金額が数億円から十億円に引き上げられた結果、関係が途絶える羽目になるプライベートバンカーだっている。そういう意味では独立系のプライベートバンカーの方が長く付き合うことができるかもしれない。

クライアントにとっては、クライアント自身を大事にしてくれるプライベートバンカーに出会うことを最優先に考えることが必要だろう。

仮に過去数年にわたってよい付き合いができたとしても、妙に態度が大きくなって、あるいは何か弱みを握られて、どちらがクライアントなのか分からなくなってしまったならば、やはりその関係は継続すべきでない。

プライベートバンカーが果たすべき役割

さて、ここまで見てくると、プライベートバンカーには理想と現実の大きなギャップが発生しやすいことは理解できただろう。

あるいは、理想的なことをやり切った結果、プライベートバンカー自身は報われるのだろうか、という自問自答にも陥りそうである。クライアントの死後、家族間の争いに本気で割って入り、仲を取り持つことにモチベーションを感じることはできるであろうか。

つまり、プライベートバンカーという仕事が、クライアントから得られる報酬と結びついた瞬間、果たすべき役割は雲散霧消する可能性を秘めている。過去、この分野の仕事が無償で行われることがあったとされるが、それも頷ける。

富裕層と仕事をするプライベートバンカーということは、貧富の差を助長する行為であるとも批判されるが、逆に社会への富の還流を促すこともできよう。これもまた発想の転換である。

信託を通じて寄付を行い、財団を通じて文化芸術、あるいは研究開発を支援し、より良い時代へと導く役割も担うことができる。富はそれだけ社会への影響力もあるのである。理想だけでは何も達成できないが、理想を語らねば達成できないものもある。そんなことを気づかせてくれるのもプライベートバンカーなのかもしれない。

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