営業と聞くと身構える人もいるわけですが、実際、金融営業にとってのジレンマはどこにあるのか、いくつかの例で見てみましょう。

若さ vs. 経験

どんな人にもその業務を始めた瞬間というのがあります。何事にも始まりは存在するのです。金融営業にはそれなりに知識や経験が求められるので、歴の長い人が好かれるような気もしますが、実際はそうでもありません。

若い方が勢いがあって、応援もしたくなる、かもしれませんし、顧客はリタイヤメントを意識するとき、自分よりも年齢が低い担当者を好んだりすることもあります。

確かに前職でどのようなことをしていたかを聞くのも一つの手ですが、関連があるかどうか、というのが直接営業としてのパフォーマンスに何か影響するかと言われるとそうでもない気もします。

営業員としてどのようなフェーズにあるのか推し量ることはできますが、実際は、成長スピードが人によって違うので、10年同じ業界にいるからといって3年の人よりも知識や経験がある、とは必ずしも言えません。

ただ、初年度の新人というのは新規開拓しかありませんから、とにかくエネルギッシュにやっていくに尽きます。一方、既存顧客が増え始めるとその対応に追われるようになり、徐々に活動の比重が置き換わっていきます。ある時期を過ぎると、既存顧客だけで売上がそれなりに立つようになり、新規に対して急ブレーキがかかるようにもなります。

アタックできる見込み客をアタックし尽くしたというのもあるかもしれませんが、知識や経験が邪魔して新規顧客のニーズが聞こえなくなることもあるので、新しい土地に行ったり、また金融以外の分野に進んだりすることで心機一転やり直す人もいます。

顧客規模 vs. 売上

金融営業の場合、扱う資産額が大きいほど売上も大きくなる傾向があります。したがって、資産を多く持つ人ほどアプローチしやすい、ということになります。このことは、営業としてやっていく中で意識しないといけないことで、小さな規模の顧客を扱うということは数をこなさなければならないことを同時に意味し、あるいは数をこなしても十分な売上にならないこともあり得るわけです。

金融機関によっては顧客規模に関わらず一人当たりの最低限の売上を設定する例もあります。門前払いを受けている気になるかもしれませんが、商売を続けていく上で必要なラインというのはあるものです。

顧客本位 vs. 利益追求

事業である以上、利益を上げる必要はありますが、一方で顧客に喜ばれるサービスを提供したいと考えます。ただ、顧客のことを考える、ということが、手数料を下げたり、結果的にサービスの質を落としたりということに繋がるリスクはあります。他社よりも安く請け負えば顧客は一時的に喜ぶかもしれませんが、頑張れば値切れるものだと思ってしまうかもしれません。あるいは安くても同じ質を求められ、事業として立ち行かなくなる可能性はあります。

顧客がいなければ事業は成り立たない中で、顧客の利益を最優先に考え、同時にそこから適切な利益を上げることが、永遠の課題になってきます。

刺さるけど良くない vs. 刺さらないけど良い

良いサービスとは売れているサービスのことか、と聞かれるとそうとも言えるしそうとも言えない面があります。とりわけ、営業トークにおいて、耳障りがよく、刺さる言葉というのはやはりあります。

金融営業の場合、儲け話の方がいいし、元本は保証される方がいい、というのを知っているので、約束できないリターンや元本保証の話をする人もいるわけです。約束できないにせよ、大きなクレームにはならないのであれば、言って顧客がその気になり契約ができれば御の字という見方もあるのかもしれません。

実際に、例えば細かなリスクの説明や、プランの詳細な設計について身を乗り出して聞く顧客も多くありません。重要なことであってもそれが面白いとは限らないからです。

一見するとつまらないものも楽しく考えられるようにするのは営業としての力の見せ所ではありますが、良いサービスを(受ける前から)良いと受け止めてもらうために刺さるトークをするのはやや骨の折れる作業ではあるのです。

売り込み vs. 潜在的ニーズ

サービスが売れるためには、顧客にニーズがある必要があります。ただ、「保険を買いたいです」というような具体的なニーズに顧客自身が至っていないことはあり、営業はその潜在的ニーズに辿り着く必要があります。顧客が「保険を買いたいです」と言っていたとしても、じゃあ保険を売れば良いという話ではなくて、なぜ保険が必要なのかを掘り下げてみれば、実は保険でなくてもいいというケースだってあります。

この潜在的ニーズはとにかく表面には出ていないので、売り込むという行為によって初めて出てくることもあるわけですが、当然売り込んだところで、ニーズが出てこないことはあるので、そのような場合は押しつけているように見え、嫌われることにも繋がるわけです。

部分最適 vs. 全体最適

金融営業のタイプにもよりますが、例えば、証券会社で働いていれば投資商品の話を、保険会社で働いていれば保険商品の話を中心にすることになります。専門でない分野のことについて語るのは避けたいところですが、顧客から見れば専門家のつまみ食いのような感じです。それは仕方ない気もしますし、関係ないと思うことを話す顧客も多くありません。営業側も専門から出ることはあまりしないので、見えているところだけを最適化しようとするので、部分最適に陥ります。

一方、顧客の視点に立てば、投資というパーツと保険というパーツを取り込む必要はあったわけで、自分の力で組み立てなければならないので、果たしてそこに全体最適と呼べるものがあったかどうかまでは分かりません。

もし金融営業の立場で顧客の全体像が見えていたならば、部分最適で出したプロフェッショナルとして答えと、全体最適で出すプロフェッショナルとしての答えは異なってくる可能性があります。

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