タックスヘイブン(租税回避地)と一口に言っても、たくさんの国と地域が該当します。タックスヘイブンを利用する人はどのように区別しているのでしょうか。タックスヘイブン毎の違いと使い分けについて解説します。

タックスヘイブンとは

タックスヘイブン(Tax Haven)とは一般には租税回避地のことで、他国・他地域に比べて大幅に軽減された、あるいはゼロの税率により、企業や個人を誘致している場所です。

タックスヘイブンに分類される国・地域そのものが違法なわけではありませんから、その利用自体も違法ではありません。

しかし、資産隠しやマネーロンダリング(資金洗浄)、テロ資金を呼び込むリスクも指摘されており、近年は注目を浴びやすくなっています。

タックスヘイブンという言葉自体に多少ネガティブなイメージも定着したこともあり、近年は「オフショア地域」と言い換えることも多いです。中程度の税率の地域をミッドショアと呼ぶこともあります。

タックスヘイブンに分類される国・地域とは

タックスヘイブンとしてリストに名が挙がってくる国・地域は以下のようにたくさんあります。これ以外にももちろんあります。

  • ケイマン諸島
  • バミューダ諸島
  • マン島
  • セーシェル諸島
  • バージン諸島
  • ジャージー島
  • モーリシャス
  • ルクセンブルク
  • マルタ
  • スイス
  • モナコ
  • リヒテンシュタイン
  • シンガポール
  • シティオブロンドン
  • 香港
  • デラウェア州

タックスヘイブン自体は珍しいものではありませんが、一般には英米法の適用される場所、かつ狭い地域であるというのが共通した大きな特徴にはなるでしょう。その中でもいくつかに分類ができます。

① 旧または現イギリス領タックスヘイブン

  • ケイマン諸島
  • バミューダ諸島
  • マン島
  • セーシェル諸島
  • バージン諸島
  • ジャージー島

② 特別指定地域タックスヘイブン

  • シティオブロンドン(イギリス)
  • 香港(中国)
  • デラウェア州(アメリカ)

③ 独立国家タックスヘイブン

  • ルクセンブルク
  • マルタ
  • スイス
  • モナコ
  • リヒテンシュタイン
  • シンガポール

なんとなく違いが見えてきましたでしょうか。

タックスヘイブンの使い分け

③の独立国家タックスヘイブンの使い方は最もシンプルです。国の安全性を重視しています。その国が“安全だ”と思うのであれば利用すればよいです。タックスヘイブンとしてのあり方は国家が定めるものなので、国の方針が変わらない限りはタックスヘイブンであり続けます。小国が多いので、初めはただ資金の置き場として利用しながら、いずれは移住する、という選択肢になってはくるでしょう。

②の特別指定地域タックスヘイブンはまさにそれぞれの大国の傘の下にあります。実際に人や企業が集積する地域を目指し、国策上重要になることが多いです。その国に住む人にとってメリットになることが多いように思います。

①の旧または現イギリス領タックスヘイブンは世界に散らばる英国の遺産でもありますし、小さな島国であるイギリスが世界への影響力を持ち続ける一つの基盤でもあります。イギリス領とはいえ、独自の法律を制定しますが、小国でかつ住む人も決して多くはないので、有数の専門家の手によって運営されている、というのが実態でしょう。②や③のタックスヘイブンもイギリスとの縁がある場所も少なくありません。

実は①の中でも、島の使い分けには特徴があります。例えば、ケイマン諸島やバージン諸島はファンドや法人が多数利用し、バミューダ諸島やセーシェル諸島は保険会社が利用しています。マン島やジャージー島は信託会社など資産保全のために使われる傾向があります。

タックスヘイブンを使うべきか

日本の場合、タックスヘイブン対策税制というのがあり、ただ海外にペーパーカンパニーを作ればタックスヘイブンの恩恵を受けられるのだ、という考え方は否定されています。

つまり、資産をただ海外に移し、資産管理会社にすればよい、というわけではないのです。それをすれば、日本から投資を行うよりも税負担が重くなる可能性すらあります。

このことは受け入れるタックスヘイブンの側にも変化をもたらしており、パナマ文書で明らかになったような不透明な資金の流れを排除するためにも、「経済的実質(Economic Substance)」を法人に対して求める動きが加速しています。

今後タックスヘイブンが利用できないわけではないですが、経済的実質がどこにあるのか(=経済活動をしっかりしているか)、それを明確にした上で検討する必要が出てきています。

また、租税協定が存在するので、「租税回避」「秘匿」はタックスヘイブンの持つ価値ではありません。透明性の確保から、資産保全にあたっては海外法人よりも信託や財団が好まれる傾向も出ています。

あるいは海外法人や海外信託が取引の途中で出てくるだけで、マネーロンダリングなどのチェックに時間を要したり、あるいは融資に難色を示されたりというネガティブな反応もあり得ます。とはいえ、国ごとの連携が進み、制度が整うのは常に良いことであり、陳腐化しないメソッドの確立にも繋がってきます。

最後に

どのタックスヘイブンを利用し、利用すべきでないかは人によって、あるいは事業によって異なり得ますので、「タックスヘイブンだったらどこでもいいんだ」と思わずにしっかりと設計を考えることが後々のためにもなります。逆にタックスヘイブンだからといって頭ごなしに否定するのではなく、メリットやデメリットなどを踏まえながら、意思決定することも大切にはなってきます。

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