プライベートバンクと言えば、1億円以上の預かり資産が必要とよく言われますが、「それ以下の小さな顧客は受け入れない」という高飛車な姿勢とは別に、資産額に応じて、そもそもリテール投資家とプロ投資家では金融機関は対応を分けなければならない、という現実もあります。

今回は、香港においてプロ投資家というステータスを得るために非常に重要な、プロ投資家宣言(Declaration of Professional Investor)について、仕組みとその意味を解説したいと思います。

個人投資家と機関投資家の違い

投資活動を行う主体のことを投資家と呼びますが、その中にも個人投資家(Individual Investor)もいれば機関投資家(Institutional Investor)もいます。これは単に個人なのか法人なのか、ということだけでなく、投資経験やスキルの差をここに認めることもできます。

例えば、個人投資家に対しては投資商品に関して一から百まで説明をしなければならないのに対して、機関投資家は既に知っているという前提で話を進めてよいということがあります。これは顧客保護(Customer Protection)の観点から、より個人投資家に対する金融規制上の保護が厚いことによります。

香港におけるリテール投資家とプロ投資家の違い

個人か法人かという話とは別に、リテール投資家(Retail Investor)とプロ投資家(Professional Investor)という区別が香港にはあります。何もしなければリテール投資家として扱われ、プロ投資家宣言(Declaration of PI)をすればプロ投資家として扱われる、というものです。これは個人も法人も同じです。

宣言をするためには諸条件がありますが、最も大きなハードルは、

<金融資産額> HKD8mln

です。日本円で言えば約1.1億円です。

これは該当する金融機関にHKD8mlnを預ける必要があるのではなく、様々な金融機関にある資産をまとめてHKD8mlnあればよいという話です。ただし、不動産などの非金融資産は含みません。

“プロ”と名のつく以上、実力がないといけないのではと思う人がいるかもしれませんが、現実には金額のハードルの方がネックになります。HKD8mlnくらいの資産がある方で投資経験が皆無ということはあまりないからです。

もちろん、プロ投資家宣言をする方の中にも明らかな投資玄人の方もいれば、基本は金融機関にお任せでご自身は投資の話はめっきりという方もいらっしゃいます。

プロ投資家宣言(PI宣言)をすることで、一体何が変わるのか、というと、

  • 売買できる投資商品の種類と数が増える

ことが最大のメリットです。

一方、デメリットは

  • 提出する書類が少し増える

ことです。

したがって、取り扱いできる商品が限定されることを理由に、プロ投資家に対してのみサービスを提供することにしている金融機関もある、ということです。対象としている顧客層について聞いてみることは有効でしょう。

日本における特定投資家と適格機関投資家の違い

香港においてはリテール投資家とプロ投資家という形で要は“アマ”と“プロ”を分けていたわけですが、日本の場合、“アマ”は一般投資家ですが、“プロ”には二段階があり、基準は「特定投資家」で金融資産3億円以上、「適格機関投資家」で金融資産10億円以上となっています。

具体的な情報を金融庁のホームページから見てみましょう。

まずは一般投資家から特定投資家になるための条件ですが、

「1)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、純資産の合計額が3億円以上と見込まれること。2)取引の状況その他の事情から合理的に判断して、投資性のある金融資産の合計額が3億円以上と見込まれること。3)最初に申出に係る契約の種類に属する契約を締結した日から1年を経過していること。」

特定投資家に関する情報 – 金融庁

となっています。1億円と3億円では大きな差がありそうですよね。また、特定投資家になったところで、書面交付義務や適合性の原則などの投資家に対する保護が一部免除されるだけなので、そういった保護を受けるために、一般投資家のままでいることを選ぶ人も少なくありません。

次に、特定投資家から適格機関投資家になるための条件ですが、細かく限定列挙されているので、ここでは詳細に触れません。気になる人は金融庁のホームページを覗いてみてください。適格機関投資家の場合、一般投資家のままでいることはできませんので、その点は要注意です。

適格機関投資家に関する情報 – 金融庁

香港プロ投資家としてのメリット

プロ投資家宣言をすることで「売買できる投資商品の種類と数が増える」と書きましたが、より具体的には、ほとんど機関投資家と同じ商品を買うことができるようになります。たとえばプライベート・エクイティファンドなどです。機関投資家はプロ投資家であるからですね。

リテール投資家向けの商品とはそれにまつわる各種のコンプライアンス上の制約にかかるコストや営業員の人件費などが乗っているので一般的には高コストです。また、大きなロットの顧客を対象に作られた商品では予め手数料が安く設定されてあったりします。「資産家が資産を伸ばしやすい」のはこのあたりにも理由があるのです。

したがって、もしご自身がプロ投資家宣言をできる立場にあるのであれば、「プロだなんて呼ばれるほど投資経験がない」と謙遜するのではなく、メリットとデメリットを踏まえてPI宣言を検討すればよいのです。

香港プロ投資家としてのデメリット

提出する書類が少しだけ増える、と書きましたが、長期的には減るといった方がいいかもしません。なぜなら、プロ投資家になれば売買毎のサインの数は少し減るからです。

一方、書類はさておき肝心なのは、一部の顧客保護が外れる、という点でしょう。日本の例でも触れたとおり、リテール投資家扱いを受けることはいざとなったときに金融機関に責任を転嫁できる可能性がある点は忘れてはいけません。

資産をもてばそれだけ金融機関からはチヤホヤされますから、自然とリスクの高い、複雑な商品にも出会うことが増えます。金融商品のことを金融機関の人間以上に一から百まで理解し切る投資家がいるとまでは期待されていませんが、選択肢が広くなった分、より慎重に考える必要がある場合もあります。

プライベートバンカーとの関係性は?

プロ投資家宣言というのは、顧客のカテゴリの話です。

それによって、担当するプライベートバンカーとの関係がどうなるか、というのは正直人によって異なります。プロ投資家だろうとそうでなかろうと、自分の投資内容は自分で決めたいという人もいれば、基本的には担当者に任せてしまう人もいます。自分がプロ投資家なのであれば、付き合うプライベートバンカーもプロが良い、と考えるのも自然でしょう。

私の場合は、どのような投資家の方であれ、基本的には可能な限り、リスク等の網羅をさせていただくようにしています。結果的にその場で全てを(本当の意味で)理解されることがなかったにしても、運用をしながら学んでいっていただきたい、と思うからです。投資に人生の全てを捧げていただく必要はありませんが、正しくリスクを認識できるだけで、投資家としての“所作”が身に付くことは人生にとってプラスだと信じています。

是非「私がプロだなんてとんでもない。」とご謙遜なさらずに済むような投資家になってみませんか。