香港の不動産は世界一高い、とも言われる。十数年前に比べ値上がり期待は剥落したかもしれないが、住宅購入ニーズは依然として実需が存在する。不動産は個別性が強く、また規制も頻繁に変わるので、本稿の内容だけでは正確性を担保しきれないので、あくまで一般の人の躓きポイントについて触れてある、くらいの理解に留めてもらいたい。
目次
世界で最も高い不動産市場
賃貸か持ち家か、で悩めないくらい香港の不動産購入のハードルは高いかもしれないが、香港の法律では日本のように賃借人の権利はそれほど強くない。オーナーから2倍の賃料上げを要求され、あるいはオーナーが変わるので出て行って欲しいと言われ、やむなく引っ越したという経験をした人もいるはずだ。結局は資本主義の世界なので、不動産を持っている人が圧倒的に優位であり、その優位性を全面に押し出して振る舞うのか、常識的にあるいは良心的に振る舞うのかでオーナーとしての見え方が違うだけなのかもしれない。
香港では贈与税や相続税がないので、自分の力で買うというよりは、親族から資金援助をしてもらって買う人の方が多いのかもしれない。若者にとって稼いだお金の半分は賃料で消えていくため、不動産を買えるだけの貯蓄を形成する術すら非常に限られているのも事実だ。
新築か中古かで異なる事情
日本だと新築価格が一番高く、その後築年数に合わせて価格が下がる傾向がある(近年はそうとも言えないかもしれない)が、香港の場合、新築か中古でそれほど変わるものではないし、築年数50年超でも十分高い価格で取引されている。建物の年齢よりも立地の方が圧倒的に影響が大きいと言える。主要エリアは古い建物の方が多いくらいではないだろうか。多くはリノベーションを繰り返して価値を維持している不思議な市場である。
少し安い、としたら出来立てほやほやの新築分譲、ではなく、建築段階で抽選購入して完成後に引き渡しを受けるタイプの新築、であれば完成後に売って利益が出る、という話もある。が、完成する頃に不動産市況が悪化していれば単に含み損スタートになることだってある。通常デベロッパーが提供する保証期間は1年(一部業者は3年)と言われており、新築時の購入者はこの期間中に不具合を点検し、補修してもらうことになる。慣れていなければ分からないことも多い。
中古に関しては様々だが、自分で住むつもりなら何らかリノベーションをすることになり、これもまた少し慣れが必要かもしれない。築年数が古ければ住宅ローンは難しいこともあるので、いずれにしても現金が豊富な人の選択肢、とはいえそうだ。
事務弁護士(ソリシター)への依頼は必須
香港でも不動産の購入にあたって不動産エージェントは介在することになり、多くの場合、売買価格の1%を手数料として売り手と買い手が同じ業者に払う、いわゆる両手仲介である。それゆえ、エージェントは間を取り持つ(あるいは内見を手配する)だけで、売り手のためだけに動いたり、買い手のためだけに動いたり、という親身さや一生懸命さを求めるのは難しいのかもしれない。それに一旦仮契約が成立すれば、その後どうなっても仲介手数料は支払いの義務がある、というくらいなので、エージェントに頼めば良い物件に出会え、その後の手続きもつつがなく進む、と考えていると少し甘いかもしれない。
実際、仮契約以降(あるいはできるかぎり仮契約以前でも)、契約にあたっては事務弁護士(ソリシター)を雇うことが必須である。必須であるというのは自分だけでやってはいけない部分がある、ということである。ソリシターは、日本での不動産取引では登記にあたって司法書士が登場するのでそれに近い役割ではある。ただ、売り手と買い手はそれぞれソリシターを雇い、法的手続きはソリシター同士で進めるという点でやはり弁護士に違いない。
実際、エージェントからソリシターの候補をもらうことは可能ではあるものの、基本的には(自分の権利を代弁すべき者なので)自分で探すことを推奨されている。医者にも色々いるのと同じで弁護士にも色々な専門領域がある。この場合は、いわゆる不動産譲渡(Conveyancing)に強いソリシターを探すことになる。もちろん不動産取引の盛んな香港なので、歩けば弁護士にあたる、くらいいるのだろうと想像はされるが、正直一般の人が探して適切な人を見つける、というのは難易度が高いと思ってしまう。
細かい話にはなるが、不動産譲渡だけなら大手でも中小でもできると思われるが、住宅ローンは抵当権設定も伴うので、これに関しては利用する銀行から予め認められた(Bank Panelと呼ばれる)ソリシターでなければできない。なので、ソリシターを選んだはいいが、その後住宅ローンを決めた銀行が対象外である場合、別のソリシターにその部分を再度依頼することになるので、料金が少し高くなる可能性がある。だったら銀行からソリシターの候補をもらえないか、とも思うが、残念ながら特定のソリシターを薦めるというのもご法度なのか、教えてはくれない。もちろん名前をこちらから出せばチェックはしてくれるので、ソリシターに銀行の候補を相談しておくか、銀行にソリシターのチェックをしてもらうか、はできることの一つではある。ただ、言うまでもないが、これは最優先事項ではない。
住宅ローン(モーゲージ)の利用の有無
現金一括で買わない場合、住宅ローンを利用して買うことになる。目的は不動産を買うことなので不動産に詳しくなるのがゴールのはずだが、いつの間にか住宅ローンについて詳しくならなければならないことに気づくだろう。むしろ自分で出すお金とローンで工面するお金の割合を考えれば、ローンを提供する側の考え方の方が色濃く反映されることは自然である。例えば、銀行は不動産価格の評価を査定するが、当然売り手の市場価格とは乖離する可能性がある。いくらで取引しようと自由な市場ではあるが、逆にいえば第三者の相場の見立てが得られる、とも捉えることもできる。
香港にも住宅ローンはあり、銀行が提供しているが、新築の場合はデベロッパーローンなど、それ以外のファイナンス会社もある。ただ、一般的には銀行を利用することになるのでここではその話をする。
住宅ローンという金融商品自体はどこの銀行にもあるといっていいが、銀行ひしめく香港ではとても競争が激しい。専門の人材を抱えねばならないので、大手行の方がどうしても有利になるようではある。金利では勝負ができないので、キャッシュリベートが主戦場となってしまうようだ。住宅ローンという当たり前の商品ゆえ、差別化が非常に難しいのだろう。
日本では50年の住宅ローンが登場して話題を呼んでいるが、香港では借入期間は最長30年である。借入金利は銀行間金利(HIBOR)+αまたは最優遇貸出金利(PRIME RATE)ー βのうち低い方が毎月自動選択される変動金利が大半を占める。もちろん一定期間の固定金利を提供してくれる銀行もある。
自分で銀行の住宅ローン部門を回ることもできないわけではないが、香港にはモーゲージブローカーがいる。大手の不動産エージェントの関連会社にも専門の人がいるし、外部のブローカーを使っても構わないが、候補の銀行担当者に繋がりやすい、という利点がある。特に費用を要求されることはないとされているので銀行からの紹介手数料で動いているとしたら、公平誠実とまで言い切れないので念のため銀行で条件確認を怠らないようにしたい。
香港の場合、銀行が貸し出すことができるのは物件評価額の7割まで、と規制されている。この規制を変化させることで過熱した不動産市況を抑えたりしているのである。仮に購入しようというマンションが5,000万円だったなら、1,500万円は頭金として必要になる計算であり、決してハードルが低い、とはいえないことが分かる。それ以上の金額を借りようと思えば、銀行に勤めることでの社内優遇や、住宅ローン保険の適格者になることで9割までは上げることが可能なようである。ただ、香港では不動産売買の本契約時には10%のデポジットが必要なので、日本のようなフルローンは普通は起こらないようである。
契約のタイムラインは買い手に優しくない
もう一つ悩ましいのが、契約のタイムラインである。香港は契約社会なので、良い意味でも悪い意味でも厳格である。仮契約から14日以内に本契約を結ぶこととされているのだが、仮契約を行なって初めて住宅ローンの申請に移ることになる。当然審査に時間がかかるので、承認を待ってから本契約に臨む、というタイムラインには概ねならない。一方で、仮契約においても本契約においても最終引渡日は記載することになるので守らねばならない。かといって、住宅ローンが通らなかったら契約を白紙に戻す、などということも容易ではない。もし仮に履行できなければ違約金としてデポジットは失うし、売り手のエージェント費用も代わりに支払うことになる。
もし住宅ローンが通らなかったら、と不安に思う人に、業界としては仮承認(Pre-approval)という試みを案内している。仮承認を得ても絶対に借りられるわけではないが、一連のチェックをしてもらってクリアした上で仮契約に進めば安心感は高まる。ただ、実際のところ、仮承認はどの銀行でも処理の優先順位が低いという答えが返ってくるし、そもそも仮承認のための申請さえ受け付けてくれない銀行がほとんどである。銀行も契約のタイムラインは知っているので、限られたリソースに対し本気の借入ニーズの方が優先されているだけではあるのだろう。
売り手としっかり交渉してようやく仮契約が済んだと思ったら、気持ちを切り替えてソリシターの選定や銀行の選定を進めていくことになる。いずれも相手に動いてもらう話なので早めに対処した方がいいだろう。
住宅ローン保険の存在
先に触れたが、香港では銀行に対して融資規制があり、それは銀行セクターを不動産価格の下落や借り手のデフォルトから守るためにも存在している。上限以上を借りようと思えば、住宅ローン保険が利用できる。*これは日本の住宅ローンに登場する団体信用保険のことではない。
保険料は住宅ローン加入者が一括で支払い、もし返済不能になれば7割以上の部分は保険会社から銀行に保険金が下りる、というものである。日本にはない仕組みなのでやや難解ではあるが、住宅ローン保険を提供する保険会社は香港では2社しかないので、どこの銀行でもいずれかを利用することになる。加入者が保険会社を選ぶことはできない。保険料を払うのは加入者だが、守られるのは銀行だからである。
銀行以外に審査する会社が一つ増えるので、銀行としては7割までで借りてくれる人が銀行にとってリスクも少なく有難いようである。それに保険料が安いわけでもないので、貯蓄があるのならわざわざ払って借りるものでもない。
また、日本であれば自己居住用に借りた住宅ローンより投資用に借りた住宅ローンの方が金利が高い傾向があるが、香港の場合はもともと7割の壁が厳しいので7割以下であれば自己居住か投資用かに関わらず金利も同じで、用途も問われないそうだ(もちろん銀行に確認はとった方がいいが、少なくとも聞いて藪蛇になることはなさそうだ)。
印紙税の存在
香港では外国人が不動産を購入することに制限があるわけではないが、不動産市場が加熱した際は、印紙税(Stamp Duty)の引き上げによって実質的に非居住者の不動産売買を抑制することが行われている。いわゆる子育て世帯の実需がある部分は印紙税が安く、そもそも十分に資産がなければアクセスしようもない高級住宅であれば印紙税が高い、というのは挙げられる。過去は様々なタイプの印紙税があり、計算が難解であったが、少し過熱感が収まった現在はシンプルな計算式になっている。
香港独特の慣習を理解する
そもそも不動産は一生に一度の買い物、という人はそれなりにいると思うが、国や地域によって慣習が異なるため、場合によってはそれが厳しく映るし、場合によっては緩く映ることになる。ここでも見たように、香港独特の考え方、プロセスが存在する。また自分自身の状況以外にも、経済全体あるいは不動産市況の状況を理解しておかなければ、後で後悔することに繋がる。大きな買い物ゆえに失敗をしないよう、時間をかけてゆっくり検討していくといいのではないだろうか。